第257話 シアナとバイオレット
「バ、バイオレットさん!?」
ルクスが驚きの声を上げるが、シアナもそれと同じぐらい。
見方によっては、それ以上に驚いていた。
────私は何も指示を出していないのに、どうしてバイオレットが堂々とこのロッドエル伯爵家に……!?
今までバイオレットがルクスの前に姿を見せた時は、必ず事前にシアナの許可があった。
が、今回はそれが無く突然現れたため、シアナは驚かざるを得なかった。
────昨日の謝罪は、こういう意味だったのね……
シアナが思い至っていると、ルクスが明るい声色で言った。
「お久しぶりです!今日はお一人なんですか?」
「はい、昨日、お嬢様からロッドエル様が商業体験を営まれていたという話を聞き、翌日である今日はとても疲れているのでは無いかと思い、よろしければ色々とお手伝いさせていただきたいと考え馳せ参じました」
「え!?フェ、フェリシアーナ様から……!?その……フェリシアーナ様は、商業体験をしているときの僕について、どう仰っていましたか?」
聞きながらも返答を不安そうにしているルクスに対し、バイオレットは落ち着いた声色でありながらもどこか優しく言った。
「とても絶賛されていましたよ」
「本当ですか!?」
「はい」
「フェリシアーナ様が……嬉しいです!」
照れながらも、笑顔で言うルクス。
「……」
────ルクスくんが、私の言葉によって笑顔を見せてくれているという状況を生んでくれたことには感謝……できそうね。
そう思い、シアナがその笑顔に思わず見惚れていると────
「シアナ様、ですね」
バイオレットがシアナの方を向いて、話しかけてくる。
思わず、いつも通り元の第三王女フェリシアーナとしての口調で「えぇ」と返してしまいそうになったのを抑えて返事をする。
「はい」
「こうしてお会いするのは初めてだったと思うので、ご挨拶させて頂こうと思います……私は、第三王女フェリシアーナ様の侍女を務めさせていただいているバイオレットと申します、よろしくお願いします」
フェリシアーナとしては幼い頃からずっと一緒に居るが、シアナとしてルクスの前で会うのは初めて。
今更バイオレットに初めましてと挨拶をするのに違和感を覚えながらも、シアナは口を開いて言う。
「ロッドエル伯爵家のルクス・ロッドエル様にお仕えしている、メイドのシアナと言います……よろしくお願いします、バイオレット……様」
バイオレットの名前を呼ぶときに、様を付けなくてはならないときが訪れることになるとは思ってもみなかったシアナは、このことにもやはり少し違和感を抱いた。
バイオレットも、どこか可笑しかったのか。
ほんの少しだけだが、口角を上げている。
そして、バイオレットはルクスに視線を戻すと、口を開いて言った。
「ロッドエル様とシアナ様は、これからどうなされるおつもりだったのですか?」
「庭で紅茶を飲みながら、軽く話をして過ごそうと思っていました」
「なるほど……でしたら、私が紅茶を淹れさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え!?そ……そういえば、先ほども色々お手伝いさせていただきたいと仰っていましたけど、フェリシアーナ様の侍女であるバイオレットさんにそんなことさせられません!」
「いえ、お嬢様と親密な関係であられるロッドエル様のことを私がお支えさせていただくのは当然のことであり、きっとお嬢様もこの場におられたら私がロッドエル様のことをお支えすることを許可してくださったでしょう」
────するはずがないわ!私とルクスくんの二人きりの時間のためにも、今すぐに身を潜めなさい!!
と言いたいところだったが、今はシアナであって第三王女フェリシアーナではないため、何も言うことができない。
「そうですか……やっぱり申し訳無さはありますけど、せっかくここまで来ていただいたのにお帰しするのも申し訳ないので、そういうことでしたら是非一緒に過ごしましょう!」
「ありがとうございます」
ということで、ルクスと白のメイド服を着たシアナ、黒のメイド服を着たバイオレットの三人は、三人でロッドエル伯爵家の庭へ向かった。
────こうしてバイオレットと直接的にルクスくんを巡るのは初めてだけれど、絶対にバイオレットの思い通りにはさせないわ!
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