第256話 先に謝罪
◇バイオレットside◇
ルクスの商業体験が終了した日の夜。
バイオレットは、シアナの部屋で────
「ルクスくん、いつもだけれど今日は特に新鮮なカッコいいところや可愛いところを見れてすごく良かったわ……あぁ、あのルクスくんの明るい笑顔、思い出しただけで心が温まるわ」
いつも通り、シアナがルクスに抱いた思いを聞かされていた。
「そうですか」
「えぇ、しかも、私にお似合いのオススメの花まで選んでくれたのよ!あの花は王城の方に置いたけれど、国宝にすべきも────」
それからも、シアナは頬を赤く染めながらルクスへの愛を語る。
一見、それに対し落ち着いた様子で受け答えしていたバイオレットだったが……
────商業を営まれているロッドエル様は、確かに……普段とはまた違った、男性としての魅力がありました。
と、心の中では、ルクスに惹かれていた。
本当であれば、自らも客としてルクスと話したかったが、今日のバイオレットの任務はルクスの周辺を警戒することであったため、それはできなかった。
「────はぁ、ルクスくん、本当に愛らしいわね」
やがて。
シアナがルクスへの想いを口にするのを止めると、バイオレットはその機を逃さずに言った。
「お嬢様、ラーゲ一派による愚行により少々騒々しくなっていたせいでご報告できていませんでしたが、例のエリザリーナ様の件についてご報告させていただいてもよろしいでしょうか」
その言葉を聞いたシアナは、面持ちを真面目なものへと変化させる。
例のエリザリーナの件というのは、エリザリーナが言っていたその時ということに関する話だ。
「えぇ、聞かせて」
「エリザリーナ様が今行っているのは、公爵の方を中心とした貴族の方に声を掛け、何かの催し事を開くということのようです」
「……催し事?」
「その内容は、参加する貴族たちも知らず、知っているのはエリザリーナ様だけのようです」
「……随分怪しいわね」
何をするのかわからない催し事。
普通であればそんな催し事にはほとんどの貴族が参加しないと思われるが、エリザリーナはこの国の第二王女。
それも、この国を今まで調停してきたという絶対的な信頼があるため、そんな芸当ができてしまう。
「そして、日程は……今からちょうど一週間後、ということのようです」
「そう……エリザリーナ姉様がどんなことを企んでいようと、日程を割り出せたのならあとは簡単よ────一週間後の前日、つまり六日後に、エリザリーナ姉様に全て吐かせて、その企み事消すわ」
その企み事というのは、確実にルクスに関する企み。
そんな企みを、シアナは絶対に許さない。
「承知致しました、お嬢様」
それから、二人が軽く六日後の計画を立てた後。
シアナは、一転変わって楽しそうな声色で言った。
「明日は休日ね……ルクスくんはまだ慣れない商業体験の疲れも残っているでしょうし、明日は二人でのんびり過ごそうかしら」
「……」
────明日……
「お嬢様、先に謝罪しておきます……申し訳ございません」
「え……?どういう意────」
困惑した様子のシアナの自室を後にして、バイオレットはシアナの前から姿を消した。
────私はもう……我慢の限界です。
◇フェリシアーナside◇
翌日の朝。
シアナは、ルクスと一緒に庭で紅茶を飲みながら話すことになったため、屋敷から出るべく玄関に向けて歩いていた。
そして、歩きながら考える。
────それにしても、昨日のバイオレットの謝罪は一体何だったのかしら。
先に、と言っていたことから、昨日の段階ではまだ何も起きていなかった。
────じゃあ、これからバイオレットが私に謝罪をするような何かをするということなの……?
なら、それはいつなのか。
────バイオレットが昨日私に謝罪したのは、私が明日の話をした時よね……つまり、バイオレットが私に謝罪をしなくてはならないことをするのは、今日?
そう結論に至ったシアナが、ルクスと共に屋敷の玄関にやって来ると。
「あれ……?」
屋敷の扉がノックされた。
「誰かわからないけど、ちょうど良かったね」
いつも通り優しい声色で言いながら、ルクスがその扉を開けると……
「え!?」
そこから姿を見せたのは────
「お久しぶりです、ロッドエル様」
黒のメイド服を着た、バイオレットだった。
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