第254話 法外の行為
「なっ……!レザミリアーナ、だとっ……!?」
普段第一王女レザミリアーナとして表に出ている時とは違う髪型であり。
服装も、レザミリアーナが普段着ている王族用の服では無かったため、目の前に居る人物がレザミリアーナだと気づくことのできなかった男は口を大きく開き、動揺した様子で驚きの声を漏らした。
「バ、バカな!どうして────」
「同国の貴族であるロッドエルを襲撃しようとしたラーゲと深い仲であり、またも同国の貴族、それも同一人物であるロッドエルに害を為そうとしていたというのであれば、見過ごせないのは当然だろう」
「ぐぬっ……!」
というレザミリアーナの言葉は、半分本当だが、もう半分は建前だ。
本当は────
「先ほど、お前は私のことを憎んでいる、そして私を斬ることで恨みを晴らすと言っていたな」
「そ……それが、どうした!」
「奇遇にも、私も同じ気持ちだということだ」
そう言ったレザミリアーナは、一度目を閉じると。
再度目を開いた時にはその目を虚ろにして、言葉には冷たく重たいものを込めて言った。
「彼が光に包まれた輝かしい道を歩むのを妨害し、彼を罵り貶めたお前のことは……私が斬る────彼の邪魔をする者は、誰であろうと許さない」
とんでもない迫力を放ちながら言うレザミリアーナの言葉に男は思わず萎縮しそうになったが、微かに残ったプライドだけで萎縮を防ぐと、口を開いて言った。
「こ、こちらのセリフだっ!レザミリアーナ!私がお前を斬り、それを暗黙の了解とすることで、我々の権威を取り戻すのに利用させてもらうぞっ!!」
そう言うと、男は腰に携えていた剣を鞘から抜いた。
多少剣に覚えがあると言っていた通り、一応構えは一つの型として成り立っている。
「私はお前を恨んでいるが、お前は恨むならあの伯爵家の子供を恨むがいい!あんなものを庇ったせいで、この場で死ぬことになるのだからなっ!!」
大きな声で言うと、男はレザミリアーナとの距離を縮めるべく走ってくる。
「仮に私がこの場で死ぬことになったとしても、私が彼のことを恨むなど、あるはずもないだろう」
この国の行く末、婚約者、自らの磨き上げてきた剣を振るうべき場所、理由。
それら全てのことに光を与えてくれたルクスのことを恨むことなど、絶対にあり得ない。
「────もっとも、今まで私と剣を交えてきた者たちのことを思えば、私が貴様程度に敗北することなど許されるはずもないが」
「ほざけっ!!」
まだ剣を鞘から抜いていないレザミリアーナに対し、もうすでに剣を持っている男がレザミリアーナに近づいてくる。
「もらったぞっ!!」
男は剣を振り上げて、剣を振り下ろそうとする動きを見せた────が。
男の動きから、どの位置に剣を振り上げるかわかっていたレザミリアーナ。
素早く抜刀すると、男が剣を振り上げた瞬間、的確に男の手に持っている剣をその手から弾き飛ばした。
「な……っ!?」
まるで未来予知でもされたかのような感覚になった男は驚きの声を上げるも、レザミリアーナは相変わらず冷たく重たい言葉で言った。
「多少剣に覚えがある程度で、この私に勝てるはずがないだろう……いいや、この程度なら、お前が侮辱していた彼にも遠く及ばない」
「ぐっ……!」
続けて、レザミリアーナが剣を構えると、男は慌てた様子で言った。
「ま、待てっ!ラーゲに続き、この私の命までをも奪おうというのか!?それも、あんな伯爵家の子供をきっかけとしてなど、馬鹿らしいとは思わないのかねっ!?」
その言葉を受けたレザミリアーナは、男に対しどこまでも虚ろな目を向ける。
「ひぃ……っ!」
その目と迫力に顔を青ざめ引き攣った顔をすると、男は口を開いて言った。
「ゆ、許せっ!今私を見逃せば、好きなだけ金を────」
と言い掛けた次の瞬間には、男はレザミリアーナによって斬られ。
その地に伏すと、亡骸となっていた。
「死に際まで、ラーゲと同じく醜かったな」
そう言うと、レザミリアーナは目に光を取り戻し、ふと剣を握っている自らの手を見つめる。
「……」
今の男を放置しておけば、ラーゲの時と同様にルクスに直接的な危険をもたらした可能性は高い。
が、少なくとも今回は、直接的な危害をもたらしていたわけではない。
そんな人物の命を奪うことは、この国において間違いなく法外の行為。
初めて法外の行為を行ったレザミリアーナは、口を開いて言う。
「法を守ること、それは重要だ……もし法が無ければ、この国は無法地帯となってしまう」
────だが。
「法を守るために、愛し守ると決めた者が害されているのを見過ごすこと、それはただの放棄に過ぎない」
────そうだ……だから。
手に持っている剣を天に掲げると、レザミリアーナは力強い声で言った。
「法では守れない君のことを、君の隣に立ち、結ばれたいと願う者として、これからは私が守ろう」
────また君と会える日が、今から待ち遠しい……愛している、君と。
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