第253話 風格
◇レザミリアーナside◇
公爵の男の後ろについていく形でレザミリアーナが歩いていると、男が話しかけてくる。
「いやはや、それにしても、不愉快な伯爵家の子供と話すというのは疲れるものですな」
「……」
「伯爵家の人間は、大人しく私の言いなりになっていれば良いものを……伯爵家の分際で公爵の私を差し置いて、自らの都合を優先するなどと────」
それからも、男は少しの間ルクスに対する愚痴を言い続けた。
それを聞いているレザミリアーナは、腰に携えている剣の柄に手を添えると、男の背中を冷たく、鋭い目つきで見据える。
今すぐにでもルクスを罵る発言をしている目の前の男を斬りたかった……が。
────まだ、この場でこの男を斬るわけにはいかない。
ルクスの妨害をしてきた男を斬るという目的は大前提だが、レザミリアーナには別の目的もあった。
だから、この場で目の前の男のことを斬るわけにはいかない。
────しかし、愛すると決めた男性を罵られることが、こうも耐え難いものとは……
それだけ、ルクスのことを愛しているということ。
────男性を愛するなどという感情が、私の中にあったとはな。
その相手がルクスであったことを嬉しく思いながら、脳裏にルクスの顔を思い浮かべる。
「……」
ルクスの顔を思い浮かべるだけで、冷めた心も温かくなりそうなレザミリアーナだったが……だからこそ。
目の前の男のことが、許せない。
再度、目の前の男の背中を冷たく、鋭い目で捉える。
そして……数分後。
「到着しましたぞ」
そう言って、男が目の前にある建物の両開き扉を開けると、二人は中に入る。
すると、そこには大きな丸のテーブルに、それを囲むようにある十を超える椅子。
加えて、キッチンや暖炉などが、大きなワンフロアの中に存在していた。
「ここは?」
「今は我々しかおりませんが、親交の深い者たちで話をする場ですな、ちょうど今夜は集まる予定がある……物はもちろん、食料も全て高級品ですぞ」
────親交の深い者たち……どうやら、当たりのようだな。
レザミリアーナは確信すると、口を開いて言った。
「親交の深い者……さらに詳細に言えば、ラーゲと深い親交のある者たちで話す場、だろう」
「っ……!?」
男は虚を突かれたように驚いた声を漏らすと、続けて言葉を詰まらせながら。
「お、驚きましたな、私とラーゲの繋がりはそこまで広くは知られておらぬと思っておったが……」
「加えて言えば、ラーゲが第一王女レザミリアーナの手によって死したことも知っている」
「なんと、そこまで……!その情報は、我々の中でしか共有されていないことなはずだが、貴殿は一体……」
男は、先ほど以上に驚いた様子を見せるも、レザミリアーナは男の様子など全く気にせずに言う。
「レザミリアーナが憎いか?」
「もちろんですぞ、ラーゲのことを死なせるなど、正気の沙汰とは思えん……それに、ラーゲを中心に回っていた我々は、レザミリアーナがラーゲを死なせてしまったせいで、今は経済的な面から何まで不況となってしまったのですからな」
「そうか……もしも、その腰に携えている剣でレザミリアーナと剣を交えることができるなら、どうする」
「はっはっは、剣には多少覚えがありますからな、いくらレザミリアーナが優秀だとしても、所詮まだ二十にもなっていない女……この恨みを持って、軽く斬ってやりましょうぞ」
────私を斬る、か。
高らかに言う男の言葉を聞いて小さく口角を上げると、レザミリアーナは口を開いて言った。
「……面白い、なら────」
レザミリアーナは、手で軽く髪を掻き上げると────レミナとしての髪型から、レザミリアーナとしての髪型になって、第一王女としての風格を放ちながら言った。
「斬れると言うのなら、斬ってみるといい……この私、第一王女レザミリアーナを」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます