第252話 近しい存在
◇フローレンスside◇
バイオレットとの距離を縮めたフローレンスは、バイオレットに対して絶え間なく細剣による素早い斬撃を続けた。
……が。
「……」
その斬撃は、短剣で防がれるか避けられるかだけで、一度もバイオレットに届くことはなかった。
一度バイオレットから距離を取ると、フローレンスは言う。
「……侮れぬ力量を持つ方だということは予測できていましたが、これほどとは思っていませんでしたので驚きました」
「私も、フローレンス様の卓越した細剣の技術には、改めて感服致します」
「そう仰っていただけるのは嬉しいですが、バイオレットさんはまだ本気を出されていないのではないですか?現に、バイオレット様が取っている行動は私の斬撃を受けるか避けるかの二択であり、一度も私に反撃をなされていません」
指摘されたバイオレットは、そのフローレンスの問いに対して答える。
「私の目的は、あくまでも足止めですので、その点においては全力で任務を遂行しています」
「目的が足止めであるため、反撃はなされていない……ということですか?」
「はい……もし私が反撃を行うとなると、その反撃によって生じる隙によって、これほどフローレンスさんの斬撃を防ぐことは不可能だったでしょう」
バイオレットはそう言っているが、実際のところどうなのかはわからない。
実際にこうして何度か剣を交えても、まだまだバイオレットの底が見えない。
それが、フローレンスがバイオレットに対して抱いた素直な感想だった。
「しかし、バイオレット様……やはり私は、あなたにその場を通してもらう他ありません」
「……ロッドエル様のため、ですか?」
「はい、ルクス様のため……私は────」
そう言いながら、フローレンスが細剣を構えようとした……その時。
「そこまでよ」
「っ……!」
バイオレットの背となる路地裏奥から、フローレンスの動きを制止する声が聞こえてくると────
「第三王女、様……!」
フェリシアーナが、バイオレットの後ろから姿を見せた。
「バイオレット、足止めご苦労だったわね」
「恐縮です」
バイオレットが小さく頭を下げると、フェリシアーナはそんなバイオレットよりも前に出てフローレンスと向かい合ってくる。
「あなたが、戻ってきたということは……」
フローレンスの口から漏れ出た言葉に対し、フェリシアーナは言った。
「えぇ、当然、あの男は死んだわ」
「っ……!」
「だからそこまでと言ったのよ、あの男が死んだ以上、もうあなたたちに戦う理由は無いでしょう?」
確かに、今回フローレンスが守るべき、フェリシアーナが屠るべき対象がいなくなった以上、もうこれ以上フローレンスとバイオレットが戦う理由はない。
……だが。
「あなたは、ご自分が何をしたか理解されているのですか……!これでまた一つ、あなたはルクス様から遠い存在となったのですよ……!」
「そうかしら?私に言わせれば、むしろあなたの方がルクスくんの傍に居るべきでないわ……ルクスくんのようなどこまでも明るい存在の近しい存在で居たいなら、どこまでも暗いことに手を染められないといけないのよ」
フローレンスの考えは逆だ。
ルクスがどこまでも明るい存在だからこそ、そんなルクスの傍に居たいと願うなら、同じく明るい存在であらねばならない。
そして、命を奪わずとも良いものの命を奪うことは、間違っても明るいことだとは言えない。
だが、そのことをフェリシアーナに話しても伝わらないだろうことは今までのことからもわかっていた。
ことに加え、そろそろルクスの元へ戻らねばならないため、フローレンスはその考えは伝えずに言った。
「……やはり、ルクス様と結ばれる前に、あなたとは決着を着けねばならないようですね」
「そのようね」
それから、フェリシアーナは亡骸となった男の後処理をバイオレットに任せると。
フローレンスとフェリシアーナの二人は、横並びで歩きながらも、静かにルクスの元へと向かった。
いつか訪れる決着に思いを馳せながら、そして────絶対にルクスのことは譲らないという思いを、互いに胸に抱いて。
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