第248話 レミナの来訪
「ありがとうございました!」
フローレンスさんが居なくなったことで、しばらくの間一人で接客をし続けていた僕。
今のお客さんを最後に貴族学校で取り決められているお昼休憩の時間になったため、一息吐くことにした。
「フローレンスさんとフェリシアーナ様、お二人とも帰ってこられないけど大丈夫かな……」
様子を見に行った方が────と思ったけど。
様子を見に行くと言っても、わかっているのはお二人が向かった方角だけだからほとんど行き当たりで探すことになる。
しかも、その間露店の方が留守になってしまうため、万が一何かあったときに対処ができなくなってしまう。
そう考えると、僕はここで大人しく待っていた方が良いのかな。
僕がどうすべきなのかを悩んでいると、露店の前にやって来た女性に声をかけられた。
「花を買いたいのだが、良いか?」
「あ、すみません……今はお昼────」
言葉を発しながらその女性の顔を見た時、僕は思わず言葉を止めた。
その女性とは、艶のある長いワインレッドの髪に、切れ長のある赤い瞳をした、凛々しい雰囲気の女性────レミナさんだ。
エリナさんやフェリシアーナ様に続いて、まさかレミナさんまで来てくださるとは思っていなかった僕は、驚きで言葉を止めていた……けど。
ようやく目の前のことに頭の中で処理が追いつくと、同時に口を開いて言った。
「レ、レミナさん!来てくださって、ありがとうございます!」
「礼を言われることじゃない」
レミナさんはそう言ったけど、僕は感謝したかったから、お礼の言葉を撤回したりはしない。
「今日は、お花を買いに来られたんですよね?」
「あぁ」
そういうことなら、今すぐにでもお花を売りたいところ……だけど。
「すみません……今はお昼休憩中で、この間は取り決めとして商売を行ったらいけないことになってるんです」
「昼休憩、そうか……」
続けて、レミナさんは少し顔を俯けて、僕には聞こえないほど小さな声で。
「君から花を買って、それを餞別への手向として受け取ろうと思ったが……私の人生は、本当に思い通りに行かぬものだな」
「……レミナさん?」
いつも堂々としているレミナさんが顔を俯けている姿が珍しかったため、名前を呼びかける。
すると、レミナさんは顔を上げて。
「なんでもない……今は昼休憩中ということだったな、それなら、私のことなど気にせずゆっくり休憩していてくれ」
言い残して僕に背を向け、この場所から去って行こうとするレミナさんの背中が────なんだか、いつもとは違ってどこか覇気が無いように見えた。
「待ってください!」
そう感じると、僕は咄嗟に待ってくださいと声を発していて、僕の方を振り返ってくれたレミナさんに続けて言葉を発する。
「取り決めで、今はお花を売ることはできませんけど……お話しすることならできるので、もしレミナさんにお時間があるなら、今から二人でお話ししませんか?」
◇レザミリアーナside◇
「……私と君の二人で、だと?」
「はい!」
どこまでも明るく優しい表情で頷くルクス。
────ダメだ……私は今日、ここに君への想いを断ち切るために来たんだ。
花を購入する際に発生する、少しの会話と花。
それだけを餞別にルクスへの想いを断ち切り、ルクスのことを忘れると心に決めた。
────二人で話す場など設けられたら、私はきっと、諦めたくないと願ってしまう……君と結ばれたいと、思ってしまう。
だから、このルクスからの提案は断らないといけない……が。
「……」
────そんなにも真っ直ぐな目で、君にそんなことを言われてしまったら……私に、断れるわけがないだろう。
「わかった……少し、二人で話そう」
「っ!ありがとうございます!」
それから、二人は近くにあった壁際に寄ると、二人で話をし始めることにした。
レザミリアーナが国と法、そしてルクスのどちらを選ぶかの選択の刻は────もう、すぐそこまで来ていた。
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