第244話 怪訝
◇ルクスside◇
「ありがとうございました!」
お花を購入してくださったお客さんに向けて、僕は感謝の言葉を伝えながら頭を下げる。
少ししてから頭を上げると、僕はフローレンスさんに話しかけた。
「エリナさん、全然戻って来ませんけど、本当に大丈夫でしょうか……」
「もしかしたら、事を解決してそのままお帰りになられたのかもしれませんね」
「それなら、僕としてもすごく安心なんですけど……」
あの公爵の男性と二人。
エリナさんがどれだけ賢いお方だと言っても、あの公爵の男性とはかなりの体格差があった。
もし揉め事になったりして、あの男性が暴力的な行為に走ろうとしたら……
「フローレンスさん、申し訳ないんですけど少しの間お店を任せても良いですか?僕、エリナさんのことを探してきます」
「そういうことでしたら、ルクス様ではなく私が────と思いましたが、その必要は無いようですね」
「え……?」
と、僕が困惑していると。
「うん!ちゃんと報告に来たよ〜!」
「っ!?」
フローレンスさんとは反対方向の隣から声が聞こえて来たため振り返ると、そこには……赤色のフードを被った、エリナさんの姿があった。
「エリナさん!ご無事だったんですね!」
「もちろんだよ、私があんな奴に後れを取るなんてありえないからね」
「本当に、本当に良かったです!」
僕が力強く言うと、エリナさんは「そ、そんなに心配してくれてたんだ……」と、どこか恥ずかしそうにしていた。
「……あの方の件は、どうなったのですか?」
少し間を空けてからフローレンスさんが聞くと、エリナさんは切り替えたように落ち着いた声色で言った。
「今後はもう、ルクス達に何もして来ないっていうことで解決したよ」
「……一体どのようにして、この短時間であの方の説得を?」
「それは秘密ってやつだよ……でも、とにかくこれであいつが二人に何かをしてくるようなことは絶対に無いから、安心して良いよ」
「ありがとうございます、エリナさん!」
「ううん、気にしなくて良いよ……じゃあ、私は用事があるからそろそろ行くね!今日はこの辺りに王族の人が派遣してくれた護衛も居るみたいだから、何かあったら頼ってみてもいいと思うよ!」
「何から何まで、本当にありがとうございます!」
お礼を伝えると、エリナさんは僕に小さく手を振ってから背を向けて歩き出した。
「エリナさん、本当にお優しい方ですよね」
「……」
僕がそう言葉にするも、隣に居るフローレンスさんは訝んだような表情で、去って行くエリナさんの背中を見つめていた。
「……フローレンスさん?どうかしたんですか?」
僕が聞くと、フローレンスさんは、はっとした様子で目を見開いた。
そして、小さく微笑んでいつも通り穏やかな声色で言う。
「なんでもありませんよ」
「そう、ですか?」
「はい」
……さっきも同じようなことがあったけど、何か────
「すみません、このお花をいただいても良いですか?」
「っ!は、はい!」
思考し始めようとしたタイミングでお客さんから話しかけられたため、とりあえず今は接客に集中することにした。
……慣れない接客をほとんど間無く行っているから、体力的には疲れていた。
けど、それだけお客さんが来てくださっているということだし、何よりもお花を買ってくださったお客さんの笑顔を見られるだけで、体の疲れなんて全く感じなかった。
そんなことを思いながら接客を続けていると……途中で、何故か周りの人たちがざわつき始めた。
僕にはそれがどうしてかわからなかったけど、とにかく目の前に居るお客さんの接客だけを続ける。
……そして。
「お花を購入したいのだけれど、良いかしら」
「はい!どのお花────え!?」
次のお客さんに接客しようと思い、そのお客さんの顔を見た僕は……
思わず声を失った。
続けて、驚きを交えながら、目の前に居るそのお方の名前を口にした。
「フェ、フェリシアーナ様!?」
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