第242話 対処
◇ルクスside◇
「意見するとか、そういうつもりでは無いんですけど……」
相手が公爵家の人ということに加えて、今はお客さん。
普段何かを言うのとは意味が違ってくるこの状況。
どう対処するのが正解なのか頭の中で考えながら対応していると、相手の男性は言葉に怒りを乗せながら言った。
「なら、この花の質が低いと認めるということだな?質の低い花で公爵家の私から金を取ろうとしたなど、許されることではな────」
「公爵家、というお言葉がどうもお好きなようですので、そういうことでしたらフローレンス公爵家の私、フローリア・フローレンスがあなたの申し出に対し返答させていただきましょう」
「っ……」
公爵の男性が苦い表情をするも、フローレンスさんは気にせずに言う。
「こちらの店に並べられているお花の質が低品質であるという訴えでしたね」
「そ、そうだ!」
「植物も生業としているフローレンス公爵家の人間として言わせていただきますが、こちらで取り扱っているお花はとても質の良いものとなります……もしあなたがこれらのお花を質が低いと仰るのであれば、どのようなお花であれば質が良いのかを詳細にお教えいただけますか?」
「ぐっ……」
さらに苦い表情をする男性に、フローレンスさんは容赦することなくさらに言った。
「それに、これらのお花は私たちが用意したものではなく貴族学校が用意したものとなりますので、もし文句があると仰るのであれば貴族学校に仰せられるのがよろしいと思いますよ」
「う、うるさいぞ!私は、伯爵家の彼と話をしているんだ!君は少し静かにしていたま────」
「うるさいのはそっちだよ」
「っ!?」
信じられないほど暗い声が聞こえてきたことによって、公爵の男性はとても驚いたように声を絞り出した。
「……エリナさん?」
一瞬誰の声かわからないほど暗い声だったけど、エリナさんの声であることは間違いない。
そのため、僕がエリナさんの方を向いて名前を呼ぶと、エリナさんは露店側から出て男性の隣に移動する。
そして、僕と向かい合うといつも通り明るい声色で言った。
「ルクス!この人のことは私の方で対処しておくから、ルクスたちは気にせず商業体験頑張って!」
「え?た、対処って、お一人じゃ危ないですよ!」
「ルクスが心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫!とにかく、本当に私のことは気にしなくて良いから、頑張ってね!応援してるよ!じゃあ、私についてきて」
「な、なんだね、君────」
「いいから、来て」
とても冷たい声色で言い放つと、男性は顔を青ざめる。
そして、エリナさんがこの場から去るべく歩き始めると、男性も顔を青ざめながらこの場から去って行った。
「エリナさん、大丈夫でしょうか」
「あの雰囲気、どこかで……」
「……フローレンスさん?」
フローレンスさんの様子もどこかおかしかったため僕は名前を呼んだ。
すると、はっとした様子で口を開いて言う。
「いえ、なんでもありません……自ら連れていかれたということは何かしらの考えがあってのことだと思われますので、今は過度に心配せず、あの方の仰られていた通り、商業体験に意識を向けることと致しましょう」
「そうですね……そうしましょう!」
せっかくエリナさんが応援の言葉まで残してくれてたのに、そのエリナさんのことを心配したせいで身が入らないなんてことになってしまったら、それこそエリナさんに合わせる顔がない。
そう思った僕は、並んでくださっていたお客さんたちに謝罪の言葉を口にしてから、再度お客さんたちにお花を売り始めた。
◇エリザリーナside◇
路地裏まで歩いてくると、公爵の男は、顔に汗を垂らしながら自らの前を歩いているエリザリーナに向けて言った。
「な、なんなんだね、君は、こんな薄汚い場所に私のことを連れてくるなど、信じられ────」
「ラーゲがやられちゃったからって、随分と必死なんだね……刺客でも何でもなく、直接出向いてくるなんて」
「なっ……!?ど、どうして私の目的を────」
ラーゲの名前が出るとは思っていなかったのか。
驚いた顔をした公爵の男だったが、エリザリーナは振り返ると、その言葉を遮るようにしながら虚な目と無機質な声色で言った。
「その見苦しい必死さと下らない意地のせいで……今から、死ぬことになるんだよ」
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