第241話 エリナの来訪

「エリナさん!?お、お久しぶりです!」

「うん!久しぶり〜!貴族学校の商業体験、思ったより露店多いから探すの思ったよりも時間かかったよ〜!」


 まさかエリナさんが来てくださるとは思ってもみなかった僕が驚き混じりに挨拶すると、エリナさんも挨拶を返してくれる。

 そんな僕たちのやり取りを見て疑問に思った様子のフローレンスさんが口を開いて言った。


「ルクス様、この方は?」

「この方は、僕の知り合いのエリナさんと言って────」

「ちょっとルクス!知り合い、なんて遠くない?私たち、友達でしょ?」

「っ……!は、はい!エリナさんは、僕の友人……です!」


 エリナさんがそう仰ってくださったことに嬉しさを抱きながらも少し照れのようなものも抱きながら言う。

 すると、エリナさんはそんな僕のことを小さく笑った。

 続けて、フローレンスさんがエリナさんの方を向いて言う。


「エリナさん、という方なのですね……しかし、エリナさん、一つ尋ねたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

「うん、何?」

「……私とあなたが会うのは、これが初めてでしょうか?」

「初めてだと思うよ?フード被ってて私の顔ほとんど見えてないと思うけど、どうしてそんなこと聞いてきたの?」

「いえ、容姿ではなく、どこかで覚えのある雰囲気だと感じたのですが……」


 それから、少し間を空けて。


「どうやら、私の勘違いだったようですね、ご気分を害されましたら申し訳ございません」

「勘違いしちゃうことって誰にでもあるよね〜!そんなことで機嫌悪くなったりしないから気にしなくていいよ!」

「ありがとうございます」


 穏やかに微笑んで返すフローレンスさん。

 だけど、エリナさんは間を空けずに言葉に勢いを乗せて聞いてきた。


「ねぇねぇ、ルクス!このお花の中で、何かルクスのオススメとかある?」

「あります!例えば、このピンクのお花なんてエリナさんに似合いそうじゃないですか?」

「私に似合いそう!?そう思ってくれる!?」

「はい!」

「じゃあ買っちゃう〜!他には?」

「あとは、この赤のお花とかも、ピンクのお花と同系色でエリナさんに似合いそうだと思います」

「っ……!買う買う!他には!?他には!?」

「えっと、他には────」


 それから、僕はオススメを教えてもらいたいと言われ続けたからオススメし続け、合計十本ほどオススメした。

 どれか一つぐらい買わないというものもあるかと思ったけど、エリナさんは僕がオススメしたものを全部買うと言ってくれて、今は────


「エリナさん!たくさん購入してくださって、ありがとうございます!」


 十本のお花の入った花束を手に持っていた。

 すると、エリナさんは小さな声で何かを呟く。


「これ買うだけでルクスのそんな可愛くて明るい笑顔見れちゃうの?それなら、もう百本ぐらい買いたい……けど、いくらなんでもそれはまずいよね〜」


 どこか落ち着いた様子のエリナさんは、僕と向かい合って明るい声で言った。


「ルクスも、いっぱいオススメしてくれてありがとね……そうだ、このまま帰るのもなんだし、あとちょっとの間だけ二人の隣で様子見ててもいい?」

「はい!僕はもちろん大丈夫です!」

「私も構いませんよ」

「ありがと〜!じゃあ、ちょっと後ろから二人のこと見てるね!」


 と言うと、エリナさんは僕たちの露店前から露店の内側に回って、僕の斜め後ろまでやって来た。


「でも、あと少しの間だけだと、お客さんが誰も来ない可能性があるので、ただ僕たち三人でゆっくりと話す時間になるかもしれませんね」


 僕がなんとなくそう呟くも、エリナさんは首を横に振って。


「ううん、そろそろ来るよ……噂は回るものだからね」


 エリナさんがそう言った直後。

 突然たくさんの足音が聞こえて来たかと思えば────


「すみません!」

「お花を一つください!」

「店の前に置くお花に悩んでいて……!」


 たくさんの人たちが、僕たちの露店に押し寄せてきた。


「えぇ!?ど、どうして突然こんなことに!?」

「ルクスの接客と、フローレンスのお花の知識が豊富ってことが、客たちから噂として出回ったんだろうね……しかも、貴族学校の制服を着た生徒による露店となれば、商業体験であることはすぐに分かるから、みんな今日を逃すわけにはいかないって来たんだと思うよ」

「なるほど……」


 ひとまず……ここは、頑張って接客するしかない!

 一度お客さんたちには一列に並んでもらうことにすると、僕とフローレンスさんは次々にお花を売って行った。



◇エリザリーナside◇

「え、えっと、次は……」


 次々とお花を売っていく中で、たくさんの人を待たせるわけにはいかないと思っているのか、ルクスはかなり焦っている様子だった。

 そんなルクスに対して、エリザリーナは優しい声色で声をかける。


「ルクス、ゆっくりだよ、ゆっくり」

「っ……はい!」


 ルクスは元気に頷くと、すぐに焦りは消えたように、再度落ち着いた動作をし始めた。

 ────はぁ、ルクス、素直で可愛くて、頑張ってる姿も本当にかっこいい。

 そんなことを思いながら、エリザリーナがルクスに見惚れていると────


「おい!」


 突然、おそらくエリザリーナたちよりも二回りは年上な男性がルクスに向けて怒鳴った。


「は、はい!なんですか?」

「それはこちらのセリフだ、なんだね、この質の低い花は……こんなもので金を取ろうと言うのか?」

「え……?し、質が低いなんて、そんなことは……」

「なんだ?伯爵家の分際で、公爵家の私に意見するつもりか?」


 その光景を見たエリザリーナは目を虚ろにすると、心の中で冷たく呟く。

 ────やっぱり、来たんだ。

 この事態は、エリザリーナにとって予測できていたもの。

 だからこそ、様子を見ると言って、この場に残った────来るべき相手が来た時に、処理を行うために。

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