第240話 商業体験
◇ルクスside◇
商業体験当日。
僕とフローレンスさんは、貴族学校が借りたという街の露店を出すことのできるスペース内にある、僕たちの露店までやって来ていた。
今はまだ開店をしていなくて、商品のお花を並べている段階。
この場所はとても広くて、露店を出しているのは僕たちだけじゃなく貴族学校の一階生全員。
そのため、信じられないほどお店の数が多いけど、それだけこの街が繁盛すると思うと僕はそれが楽しみだった。
「……あ、フローレンスさん、このお花はどこに置いた方が良いと思いますか?」
「そちらのお花は────」
その後、僕とフローレンスさんが二人でお花を並べ終えると、少ししてからいよいよ開店時間となった。
お花を並べているときは時間が早かったから人通りが少なかったけど、今の時間辺りから本格的に人通りが増えて来る時間。
その証拠に、通りすがりの人たちが次々にそれぞれの露店を覗いている。
中には、もう商品を購入している人なんかもいるようだった。
「緊張しますね、フローレンスさん……!」
「そうですね」
いつも通り穏やかに微笑むフローレンスさん。
言葉では共感してくれているけど、その表情は声色からは全く緊張なんて感じ取れない。
でも、こういう人が隣に居てくれると、僕も緊張せずに接客することができ────
「すみません」
「は、はい!」
るわけもなく。
初めてのお客さんから声をかけられた僕は上擦った声を上げると、そのお客さんと向かい合った。
「このお花が欲しいんですけど、買わせてもらっても良いですか?」
「もちろんです!」
それから、僕は料金を受け取ると、お客さんに指定されたお花を手渡した。
そして、お客さんは受け取ったお花を見て小さく口角を上げると、この場から去って行った。
「ありがとうございました!」
で、できた……!
僕が心の中で安堵と同時に歓喜を抱いていると、フローレンスさんが優しい声で話しかけてくれる。
「ルクス様、とてもお上手でしたよ」
「フローレンスさん……!ありがとうございます!」
今回は難しい交渉とかが無かったから、すんなりと終えることができた。
この調子で……!
少ししてから、また別のお客さんがいらっしゃった。
先ほどと同じように、料金を受け取ってから指定されたお花を手渡そうとした……ところで。
フローレンスさんが口を開いて言った。
「そちらのお花をご購入なされるのでしたら、こちらのお花もオススメですよ」
お客さんがフローレンスさんの方を向くと、続けて言った。
「はい、こちらのお花は今ご購入なされたお花と同じ時期、気候に育つお花であり、色合いに関しても今ご購入なされたお花の横に添えるだけで場が華やかになると思われます」
フローレンスさんは、全く澱みなくそう言葉を紡いだ。
すると、お客さんは今のフローレンスさんの説明で納得したようで、そのお花も購入すると決断なされると、そのお花分の料金も支払ってきた。
「ありがとうございました!」
二つのお花をしっかりと手渡してからお礼を言うと、お客さんは嬉しそうに小さく口角を上げてこの場から去って行く。
そして、僕はすぐに隣に居るフローレンスさんに向けて言った。
「あんな風にすぐにお花の魅力を伝えられて、すごいです!」
「ふふっ、お花は私の専門分野でもありますから……あとは、そうですね」
続けて、頬を赤く染めると僕に少し顔を近づけてきて。
「ルクス様の魅力も、私はどれほどでもお話しすることができるかもしれません」
「っ……!」
「すみません」
「っ!は、はい!」
僕が今のフローレンスさんの言葉に恥ずかしさを抱いていると、お客さんが話しかけて来たため、どうにか僕は切り替えて応対する。
「ありがとうございました!」
そして、今もまた一人接客を終えると、フローレンスさんが僕に向けて言った。
「やはり、ルクス様はとても魅力的なお方ですね」
「え……?」
「ルクス様がお花を手渡した方々が、必ず嬉しそうな表情でこの場を去って行かれていることに」
「それは、もちろん気付いています」
そのことにやりがいすら感じ始めていたぐらいには、意識もしていた。
「ですけど……それは僕がお花を手渡したからというより、綺麗なお花を購入できたからじゃないでしょうか?」
「もちろん、その側面があるのは確かです……が、やはりルクス様の────」
フローレンスさんが何かを言いかけた時。
「ルクス〜!頑張ってるみたいだね〜!」
聞き覚えのある明るい声が聞こえてきてその声の方に振り返ると、そこには────赤色のフードを被ったエリナさんの姿があった。
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