第238話 不快
「────ぐあああああっ!」
フローレンスの斬撃によって、剣と共に壁の方へ吹き飛んでいった男子生徒。
これで、五人の男子生徒のうち三人が、フローレンスとアシュエルの手によって無力化された。
「これで、元々あった人数差という有利も無くなってしまいましたね」
「クソッ!剣術大会優勝者と剣術大会準々優勝者の名前は伊達じゃねえってことか……」
「ちょっと!優勝の後にそんなに準付けられたら嫌味にしか聞こえないんだけど!」
「何にしても、このままあなた方二人のことも無力化させていただきます」
そう言って一歩踏み出したフローレンスに対し、男子生徒の一人が言った。
「ま、待てよ!そもそも、俺たちが戦う理由なんてねえだろ?」
「……はい?今になって何を────」
突然の言動に困惑したフローレンスが聞き返そうとするも、相手の男子生徒はどこか慌てた口調で遮るようにして言った。
「さっきも言った通り、結果的にお前に迷惑をかけることになるのは否めないが、それも全てはロッドエルを蹴落とすためなんだ!俺たちは別に、お前たちとこうして争いたいわけじゃない」
続けて、もう一人の男子生徒も今の言葉に頷いて同調するように言う。
「あ、あぁ、そうだ、むしろ同じ公爵家として、優秀なお前たちのことを誇りに思ってるぐらいだ……だから今こそ、同じ公約家の仲間として、貴族のあるべき姿を取り戻すためにもロッドエルを────」
「仲間……ですか?私と、あなた方が……?」
フローレンスは、フェリシアーナのことを敵対視している。
偽ることを知らないルクスに偽りの姿で接し、ルクスに害を為す者に対して、ルクスの望まないであろうやり方で対処しているからだ。
だが、ルクスのことを想い、ルクスを大切に思っているところだけは共通しているため、その一点においてだけは信頼を置いていた。
……そのことを前提として、ルクスのことを大切に思っているどころか、蹴落とそうと考えている人間に仲間だと言われたフローレンスは────
「ルクス様を傷付けるあなた方と私が仲間だなどと……これ以上、私を不快にさせないでください」
冷たく言い放つと、直後。
手に持っていた細剣を、二人の男子生徒には目に追えないほどの速度で一閃した。
「なっ!?」
「ぐあっ!?」
それによって男子生徒二人の持っていた剣が飛ばされると、その衝撃によって男子生徒自身も吹き飛ぶ。
「あ!ちょっとフローレンス!私もイラッと来たから、一人倒したかったのに!」
「申し訳ございません、抑えることができませんでした……それはそれとして」
心はまだ怒っているが、その怒りを凍てつかせることでどうにか抑えたフローレンスは、手や膝を地についている男子生徒たちに近づくと、聞くべきことを口にした。
「どうして、あなた方は今回このようなことをなされようと思ったのですか?」
「ぁ……?理由は、さっきも────」
「そうではありません……いくらルクス様に好成績を収めさせたく無いからと言っても、今回の手段は強引すぎるように思えますので、どうして突然強引な手段を使われたのかということをお聞きしているのです」
長い目で見れば、わざわざ商品を奪うというリスクを冒さずとも、他に方法があっただろう。
それでも、早急にルクスを妨害することが目的かのように、今回はそのリスクを冒してきた。
その理由をフローレンスが問うと、一人の男子生徒が言う。
「そ、それは、ラーゲさんが死んで、色々と殺気立ってるっつうか……」
「ラーゲ、って確か……」
そう呟くアシュエルの隣で、フローレンスは一度目を閉じて落ち着いた声色で言った。
「……明日の商業体験もまた、面倒なこととなってしまいそうですね」
────無論、何が起きようとも、ルクス様のことは私が必ずお守り致しますが。
その後、五人の男子生徒の目的を無事阻止したフローレンスとアシュエルは、あの男子生徒五人が行おうとしたことを然るべきところに報告してから、それぞれの屋敷に帰った。
────ルクスを巡る各人の思惑が交錯する商業体験当日まで、あと数時間。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます