第237話 倉庫

 ────商業体験用商品保管用倉庫内。

 五人の男子生徒が、商品の入った木箱の蓋を開けては閉じてを繰り返しながら話をしていた。


「クソッ、予想はしてたが、こんなに商品が多いと探すのも一苦労だな」

「二人一組のペアそれぞれに一つの店が成り立つように商品を提供するんだ、こんなにあるのも無理はない」

「まさに、俺たち貴族に相応しい学び舎だな」

「あぁ……だが、だからこそ、これは失敗できない」

「そうだ……もうこれ以上、伯爵家のロッドエルなんかに好成績を収めさせてたまるか!」


 その言葉によって気を取り直したのか、五人の男子生徒は再び躍起になって木箱を漁り始めた。

 ……が。


「とても興味深いお話をなされているようですね」

「あんたたちっ!ロッドエルくんの邪魔なんて、私が絶対許さないんだから!!」

「っ!?」


 突如、背後から声をかけられたことに驚いた様子で振り向いて言った。


「フ、フローレンスと、アシュエル!?」

「な、なんでお前たちがこんなところに────」

「自分の商品が奪われると分かっていて、それを阻止しない手などありません」

「ど、どこでそのことを……」


 一歩前に出ると、アシュエルは動揺している五人の男子生徒に向けて高らかに言った。


「この私が教えてあげたの!私が!私にかかれば、あんたたちの目的なんて見え見えなんだから!」

「っ、時間がなくて貴族学校内で計画を話してた時に、聞かれてたのか……」

「だが、ちょっと待て!俺たちにはまだ交渉の余地がある!」

「交渉の余地、ですか」


 フローレンスは全く期待していない声色で言ったが、男子生徒は頷いて言う。


「あぁ……確かに、結果的にフローレンスにも迷惑をかけることにはなるかもしれないが、これも俺たち公爵家や侯爵家の人間の尊厳のためだ!」

「そ、そうだ!あんな伯爵家のやつなんかに、これ以上活躍の場を奪われてたまるか!」

「アシュエルだって、直近だと剣術大会で伯爵家のロッドエルなんかより順位が低くて悔しかっただろ?だから、俺たち公爵家の優位性を保つために────」

「あんたたちなんかと一緒にしないで!」


 遮って力強く言うと、アシュエルは続ける。


「確かに、アシュエル公爵家の私が優勝できなかったのは悔しいけど、あんたたちみたいにロッドエルくんのことを恨んだりしないし、むしろ私はあの真っ直ぐな剣に目を奪われたの!」

「っ……!」


 予想外の返答が返ってきたからか驚く男子生徒たちに、フローレンスが言う。


「無論、私もあなた方の言い分など聞き入れる気はありません」


 続けて、驚いた様子の五人を順々に見ながら。


「それに、あなた方は自らの爵位にある尊厳を訴えながら、ルクス様が優秀であることを認め、その優秀さを脅威として動いているではありませんか」

「ぐっ……!」

「こ、こうなったら、もうやるしかねえ!」


 その言葉をきっかけとして、五人の男子生徒は剣を抜いた。


「……抜かれるのですね」

「安心しろ、お前たちはロッドエルとは違って俺と同じ公爵の人間だからな、命を奪ったりはしな────」

「黙りなさい」

「うるさい!」

「っ!?」


 フローレンスの冷たい声とアシュエルの感情が剥き出しになった声が倉庫内に響くと、二人はゆっくりと剣を抜いて言った。


「フローレンス、能力だけは認めてあげてるんだから、足引っ張らないでよね」

「はい、もちろんです」

「こ、この人数差で勝てると思ってんのか!」

「言葉で説明するよりも、実際に試した方が早いと思われますので────始めましょう」


 その言葉をきっかけとして、フローレンスはアシュエルと共に五人の男子生徒と剣を交え始めた。

 ずっと胸に抱いている、信念を思いながら。

 ────ルクス様のことは、私がお守り致します。

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