第231話 歓喜

 その姿を拝見した瞬間は困惑だったけど、やがて困惑は驚愕へと変わり────ど、どうしてエリザリーナ様がここに!?

 と、僕は心の中で叫んでしまっていた。

 ……ここは、この国でも一番大きな図書館。

 だから、エリザリーナ様が居てもおかしくないと言われればそう……なんだけど。

 僕が行こうとしていた場所にちょうどエリザリーナ様がいらっしゃったとなると、やっぱり驚かずにはいられなかった。


「……」


 僕が驚きによって動けず、呆然と立ち尽くしながらただエリザリーナ様の方を見て固まっていると。


「……ん?」


 本棚と向かい合っていたエリザリーナ様は、僕の視線に気づいたのかふとこちらを向いた。

 すると────


「え?」


 先ほどの僕と同じように、困惑の声を漏らした。

 かと思えば、とても驚いた様子で大きな声を上げて言う。


「ル、ル、ルクス!?え?なんで!?幻覚!?」

「い、いえ、幻覚では────」

「ルクス〜!!」


 僕の名前を叫ぶと、エリザリーナ様は本棚前を後にして僕に近付いてくると、そのまま僕のことを抱きしめてきた。


「エ、エリザリーナ様!?」

「久しぶりだね〜!会えて嬉しい〜!ずっと会いたかったよ〜!今日は図書館に勉強しに来たの?」

「は、はい、そうです……」


 せっかくエリザリーナ様が僕に話しかけて来てくださっているんだから、ちゃんと話さないといけないのはわかっている。

 だけど、エリザリーナ様は今胸元の開けた服を着ているということもあって、正面から抱きしめられると色々と当たるというか……

 それに、少し下を向けば、エリザリーナ様の────っ!

 と、とにかく、エリザリーナ様には申し訳ないけど、抱きしめるのをやめてもらうよう伝えないと!

 しっかりと会話をさせていただくためにもそう思い至った僕は、この状況に緊張しながらも口を開いて言う。


「あの、エリザリーナ様、抱きしめ────」

「ルクスは相変わらず頑張り屋さんなんだね〜!」

「そ、そんなことは……それより────」

「いつも応援してるからね、ルクス!」

「……あ、ありがとうございます」


 そもそも、あの第二王女エリザリーナ様と突然出会ったこと……

 に加えて、今こうしてエリザリーナ様に抱きしめられていることに動揺していた僕だったけど、応援していると言われて感謝の言葉を口にしないのは失礼だと思ったため、どうにか感謝の言葉だけはしっかりと伝えた。

 すると、エリザリーナ様は僕のことを抱きしめるのをやめて、僕から体を離すと、自らの体を見ながら言う。


「あ〜あ、ルクスと会えるってわかってたら、こんな堅い感じの服装じゃなくてもっと可愛い服着てきたのにな〜」

「可愛い服……エリザリーナ様は今の服も、というか、どんな服を着ていてもお似合いで、綺麗な方だと思いますよ」

「っ……!」


 僕が心から思ったことを伝えると、エリザリーナ様は頬を赤く染めた。

 そして、嬉しそうな声色で言う。


「ルクスってば、本当素直なんだから……だけど」


 続けて、僕の右耳元で囁くように。


「私は、そういうルクスの素直なところが大好きだよ」

「っ……!」


 僕にとって嬉しいことを仰ってくださっているのは間違いないけど、耳元で囁かれたことでなんだか恥ずかしくなって、僕は思わず右耳を押さえる。

 すると、エリザリーナ様はそんな僕のことを見て明るい笑顔を浮かべた。

 それから、少し間を開けると明るい声色で聞いてくる。


「さっき、図書館には勉強しに来たって言ってたけど、どんな勉強しに来たの?」


 間が空いたことで少し落ち着きを取り戻した僕は、右耳から手を離して答える。


「近々、貴族学校で商業体験というものが行われるんですけど、僕は商業に関する知識が無いので、商業そのものや、交渉の仕方とかも勉強したいと思ったんです」

「なるほどね〜!そういうことなら────」


 両手を後ろに回すと、エリザリーナ様は身を乗り出して言った。


「今から、私がその辺りのこと教えてあげよっか?もちろん、二人っきりで……ね」

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