第230話 邂逅
貴族学校の休み時間になると、僕はフローレンスさんと一緒に商業体験のペアを決定する紙を先生に提出した。
すると、先生が頷いて言う。
「ロッドエルさんとフローレンスさんのお二人、ですね……確かに受け取りました」
そう言うと、続けて僕たちにある紙を渡してきて言う。
「今回の商業体験では、そちらの紙に書かれている商品の中から売るものを決め、実際に商業を行なっていただくことになります」
先生から視線を逸らして一瞬だけその紙に視線を送ると、膨大な量の商業の種類や実際に売るものなどがリストアップされていた。
……これだけ多くのものを学校側で用意できるという貴族学校は、今までのことからわかっていたことだけど改めてすごい。
続けて、先生が口を開いたため、すぐに視線を戻す。
「今回の商業体験では、売り上げが多ければ特別賞もありますので、積極的に取り組み、好成績を収められるよう頑張ってください」
「はい!」
「はい」
先生とのやり取りを終えた僕たちは、講義室に戻ると、先ほど受け取った紙に目を向けて二人で話し合う。
「衣服や食べ物、家具から普段は使わないような道具まで、幅広く用意されてるみたいですね」
「はい、おそらく、どのようなことを生業としている家の方でも、商業に積極的に取り組めるようにという学校側の配慮だと思われます」
「なるほど……フローレンスさんは、商業の経験とかはあるんですか?」
「商談の席に着いたことはありますが、こうして街に出てというのは今回が初めてです……ルクス様はいかがですか?」
「僕は、街に出るどころか商業に関することをするのも初めてなので、楽しみですけど少し緊張します」
素直に伝えると、フローレンスさんは優しく微笑みかけてくれて言った。
「ご安心ください、ルクス様がお困りになられたときは、必ず私がルクス様のことをお支えさせていただきます」
「フローレンスさん……ありがとうございます!」
続けて、二人で再度少しそのリストに目を通してから僕は聞く。
「フローレンスさんは、この中のものだとどんなものを売りたいですか?」
「そうですね……私は、お花を売りたいと思いました」
続けて、優しく穏やかな声色で。
「お花でしたら心から売りたいと思え、多少知識もありますので」
「っ!そういうことでしたら、お花にしましょう!」
「……良いのですか?」
「もちろんです!知識だとフローレンスさんに遠く及ばないですけど、僕もお花は大好きで、お花を買って喜んでくれる人を近くで見られたら嬉しいので!」
僕がそう答えると、フローレンスさんは優しく微笑んで言った。
「ルクス様らしい理由ですね……そう仰ってくださるのであれば、この商業体験では、二人でお花を売ることと致しましょうか」
「はい!!」
フローレンスさんと二人でお花を売る……!
この商業体験は、僕にとって本当にとても楽しいものとなりそうだ。
そして────今日の放課後になると、僕は一人でこの国でも一番大きな図書館へとやって来ていた。
辺りを見渡せば、無数の本が僕のことを囲んでいる。
「……少し懐かしいな」
貴族学校入学前はよく勉強に来ていたけど、最近は自室での勉強で十分だと思いあまり来れていなかった。
入学してから本当にいろいろなことがあったけど、今は過去を振り返ってる場合じゃない。
自室での勉強でも十分だと思っていた僕が、どうして今日はこの図書館に来たのか。
その答えは簡単で、今まで商業体験の無い僕にとって、今回の商業体験に関しては自室での勉強だけでは全然十分じゃないからだ。
ひとまず、一つの商業に関する本を手に取ると、続けて交渉術に関する本がある場所に足を進める。
「……案内によると、ここを曲がったところだ」
案内通り、そのまま曲がって交渉術の本がある本棚の前に向かおうとした……
その時。
「え……?」
僕は、そこに居た人物のことを見て、思わず困惑の声を上げた。
その人物とは……明るいピンク色の髪を二つ括りにしていて、少し胸元の開けた服を着ている女性────第二王女エリザリーナ様だった。
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