第229話 叶わない夢
「レザミリアーナ様、お待ちしておりました……中で、国王陛下がお待ちです」
「あぁ、開けてくれ」
玉座の間の扉前に到着したレザミリアーナがいつも通り凛々しい立ち姿で伝えると、扉の左右に立っている二人の兵はゆっくりと扉を開けた。
扉から真っ直ぐと続くレッドカーペットの上を歩くと、玉座に座る父の前で片膝をついた。
「よく来てくれたな、レザミリアーナ」
「いえ、お父様から勅命が降れば、従うのは当然のことです」
「良い心掛けだ」
続けて、国王は少し間を空けてから言った。
「今日レザミリアーナのことをこの場に呼んだのは他でも無い、この国の未来のためだ」
「現状は私、第一王女レザミリアーナ、第二王女エリザリーナ、第三王女フェリシアーナ、そしてフローレンス公爵家などの有力な貴族たちの手によって、この国は史上、そして他国を見ても類を見ないほど躍進を続けていますが、お父様にはどこか不安な点があられるのですか?」
「もちろん、お前たちの手腕に責を問うつもりはない……むしろ、お前たちの優秀さをこの国の誇りとすら思っている」
と言った国王は「だが」と枕詞に付けて。
「半年ほど前に、フェリシアーナが百を超える数、伯爵家の人間と婚約したいと申し出てきたことは覚えているか」
「はい」
伯爵家、か……
私の想い人であるロッドエルも伯爵家だったな。
数奇なこともあるものだ。
「あれ以来、フェリシアーナは諦めたのか何も言って来なくなった……が、今度はエリザリーナが同じことを言い出した」
「……エリザリーナも、伯爵家の人間と婚約したいと?」
今までのフェリシアーナとの会話から諦めてはいないことを予想していたレザミリアーナだったが、そのことは口にせず聞き返す。
と、国王は頷いて言う。
「あぁ……それも、かなり強い意志を持っているようだ」
────あのエリザリーナが男と婚約したいなどと言うとはな……今まで良い男が居ないと言っていたが、誰か良い男を見つけたということか。
今まで知らなかったその事実に素直に驚いていると、国王が強く言う。
「が、王族が、貴族の中でも公爵家の人間ならともかく、伯爵家の人間と婚約することなど許されて良いはずがない」
「っ……!」
────王族に、伯爵家の人間と婚約することは……許されない?
「他国と日々関わりを持っているレザミリアーナなら、言いたいことがわかるな」
「……」
「王族が伯爵家の人間と婚約するなど、国の将来を思うのであればあってはならぬことだ」
王族が伯爵家の人間と婚約する。
それも、一人だけでなく、三姉妹全員が。
────あってはならぬこと……その通りだ。
本来、王族の婚約は、他国の王族と婚約し、より二国間での関係性を強化。
もしくは、公爵家の人間と婚約することで、その公爵家の強みを大いに広げることが目的とされる。
────エリザリーナやフェリシアーナはともかく、第一王女の私が国のことを考えず感情で動くなど……示しがつかない。
自らの感情よりも、第一王女として国や法のことを優先すべきだと考えているレザミリアーナは、国王の言葉に小さく頷く。
「わかってくれたか、では、レザミリアーナの婚約相手は私の方で数名見繕う……近々行う他国王族交友会で、婚約したいと思える相手を探すのだ」
「……はい」
いつになく覇気の無い声で返事をすると、国王が言った。
「家柄や能力だけでなく、人格の方も出来得る限り見定めて選ぼう……では、もう下がって良い」
「……失礼します」
相変わらず覇気の無い声で言うと、レザミリアーナは静かに玉座の間から出た。
そして、王城内の廊下を歩きながら、笑顔のルクスの顔を想像する。
────あぁ……愛する君と添い遂げる、そんな夢は、最初から……叶わない夢だったのだな。
レザミリアーナは、生まれて初めて自らの感情によって涙を流しそうになった。
が、第一王女の自分にこのようなことで泣くことは許されないと、剣の柄を強く握ることでどうにか堪える。
この苦しみが癒えることは、おそらくもう無いだろう。
国や法よりも、自らのルクスへの愛情を力強く選び取る────そんな日が、来ない限りは。
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