第227話 一択
商業体験……?
聞き慣れない言葉に困惑していると、先生が続けて言った。
「商業体験とは、言葉通り商業を体験する機会であり、皆さんには学校側で用意させていただく商品を、それぞれ実際に売っていただくこととなります」
短期間の実施ということなら、学校側で商品を用意してくれるのはこちらにとってもありがたいことと言えそうだ。
それにしても……実際に売るというのは、どこで売るんだろう。
僕がそんな疑問を抱いていると、先生はその僕の心の中での疑問に答えてくれた。
「商品を売る場所は、貴族学校で一定期間貴族学校が借りることになる、街の露店を出すことのできるスペースでとなります……そして、物売りを経験したことがある方は一人でも問題無いと思われるかもしれませんが、商業というのはチームワークもとても大切になって来ますので、今回は二人一組で臨んでいただきます」
「っ……!」
二人一組、ということはフローレンスさんと組めたりするのかな。
そう思いながら僕がフローレンスさんの方を向くと、頷いて僕の方に優しく微笑みかけてくれた。
そのことが嬉しくて思わず目を見開いて声を出してしまいそうになった僕だったけど、先生が全員の机の上にプリントを配り始めたためどうにかそれを抑える。
やがて、全員の机の上にプリントを配り終えた先生は、講義室の教壇前に戻ると言った。
「どなたと共に商業体験を臨むかを決めることができた方は、そちらのプリントに二名分の名前を記入して私の元へ届けてください」
続けて、先生は枕詞に「最後に」と付け加えて言った。
「貴族である皆さんが、将来実際に街の商人として物を売ることになる機会はあまり無いかもしれませんが、商いにおいて信頼を得ることや、物を売る人物の人格が重要であること、交渉術、トラブルへの対処能力など様々なことを学べると思いますので、この機会でしか学べないことをたくさん学んでいただければと思います……商業体験についての説明は以上です」
それからは、通常通り講義が始まり、休み時間になると────
「フローレンスさん、良ければなんですけど今回の商業体験、僕と一緒にどうですか?」
「もちろんです、むしろ私の方から誘わせていただこうと思っていたほどですので」
僕の誘いにフローレンスさんは二言返事で承諾してくれて、僕たちは二人分の名前を書いたプリントを先生に渡した。
商業体験……どんな感じになるんだろう。
今まで商業の経験が無い僕は、今から未知の体験に足を踏み入れようとしていることに、緊張を抱きながらもフローレンスさんと一緒だと思うと、不思議と不安は無くなって、むしろ楽しみな気持ちでいっぱいだった。
◇フェリシアーナside◇
「これより、王族会議を始める」
会議室に第一王女レザミリアーナ、第二王女エリザリーナ、第三王女フェリシアーナが集まると、レザミリアーナはそう口にして王族会議の開始を宣言した。
続けて口を開いて言う。
「今回は貴族学校で行われる商業体験についてと、少し前に起きた襲撃事件に関連する話だ……まず、貴族学校で行われる商業体験についてだが、学生たちが街で商売を行うとなると普段とは違うトラブルが発生する可能性があることを留意しておいてくれ」
「はい」
「は〜い」
────貴族学校の商業体験……おそらく、ルクスくんをお店を出すのよね……お姉様たちには内緒で、頑張って商業をしているルクスくんに会いに行こうかしら。
シアナがそう考えている間、他の二人も何故か沈黙していた。
が、シアナは自らの思考で頭を埋め尽くしていたため、その事に気がつかない。
少し間を空けてから、レザミリアーナが口を開いて言う。
「次に、ラーゲ公爵が起こした同国の貴族を襲撃したという事件に関してだが……ラーゲが没してから、ラーゲと盟を結んでいた貴族たち、ラーゲ一派の動きがおかしいとエリザリーナから報告を受けた」
「そうそう、逆恨みかプライドか知らないけど、あれ絶対なんか良くないこと考えてるよ」
「そうか……では、仮にもしまた今回の被害者であるロッドエルが、ラーゲ一派に危害を加えられる、もしくはその兆候が見られた場合どのような対処が適切かこの場で決を取る、二人の意見を聞かせてくれ」
もし被害者がルクスという前提の話でなければ二人も少しは考えたのかもしれない────が。
仮にだとしても被害者がルクスであるなら、シアナとエリザリーナに考える余地など無く、二人は冷たい声色で即答した。
「死刑一択」
「死刑が妥当だと思います」
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