第223話 沈黙

 レザミリアーナのどこまでも冷たく重たい迫力に、剣士たちはいつでも抜刀できるように剣を構えた。

 そして、その虚な目の先に居るラーゲは、レザミリアーナに気圧されそうになった様子だったが、それを覆い隠すように言う。


「い、命を落としてもらう、だと!?この私の命を奪うというのか!?」

「同国の貴族を襲撃し、果てにはこの国の第一王女である私に剣を向けたんだ、当然だろう」

「ふ、ふざけるな!私がこれまでどれほどこの国に貢献したと思っている!資金援助はもちろんのこと、貴族たちの教育も────」

「お前の言う教育は、位意識の強い偏った教育だ……そのような考えが今回のような事態をもたらすのであれば、もはやお前は害悪でしかない」

「が……害悪、だと!?」


 今まで公爵として公爵以外の者には横柄な態度を取って来たラーゲはそんな言葉を言われ慣れていないのか、驚いた表情をした。

 が、レザミリアーナがそんなことを慮る理由は一つも無いため続けて言う。


「もう、この国のお前のような貴族は必要ない────直に彼が君臨することになる、この国にはな」

「か、彼……?」


 誰のことを指しているのかわからないラーゲだったが、レザミリアーナは頭の中でルクスのことを想像する。

 そして、小さく口角を上げて呟いた。


「ふふっ、そうだ……もう直、私と彼が結ばれれば、この国には彼が王として君臨することになる……そうなれば、この国にはこの世にあるどのような光よりも眩しき光が差すこととなるだろう」

「な、何を言っておる!」

「お前のような人間に、とても優しく、明るく、人のためを思い努力することができる彼のことを理解できるとは思っていない……剣やその人格は、優しさや経験不足といったもののせいでまだ未熟だが、彼であればその未熟さすら愛らしく、貴い……そして、今未熟なのであれば、いずれは私が成熟させれば良いだけのこと」

「き、気でも狂いおったか!?」


 慌ただしく汗をかきながら大声を出すラーゲのことを視界に映し、呟く。


「……彼がこの国の王として君臨する前に、やはりお前のような害悪な存在は消しておかねばな」

「っ……!黙って聞いておれば、好き勝手言いおって!!」

「……黙るという言葉の意味すらわからないなら、私がお前に本当に黙るとはどういうことなのかを教えてやろう」


 重たい言葉と共にレザミリアーナから凄まじい気迫が放たれると、剣士たちは動きに一瞬だけ動揺を見せた。

 そして、それ以上に動揺を見せたラーゲが大きな声で言う。


「も、もう良い!お前たち!早くレザミリアーナを斬れ!!」


 そう指示が下されたことによって、剣士たちは同時にレザミリアーナに斬りかかる。

 八人によって囲まれ、その八人が一斉に斬りかかってくる。

 通常であれば絶体絶命の状況……

 だが、レザミリアーナは全く動じた様子無く、落ち着いた動作で姿勢を低くすると────剣士たちの剣がレザミリアーナに振り下ろされるよりも早く、右回りで円を描くようにして八人を斬った。


「なっ……!?」


 それによってその場に伏した八人の剣士たちに驚くラーゲだったが、レザミリアーナに驚きはない。

 毎日の鍛錬で行っている動作を、違う場所でしただけに過ぎないからだ。


「バ、バカな!この辺りでも腕利きとされている剣士たち八人を、一蹴だと!?」

「こんな者たちが何人集まろうと、私に勝てるはずがないだろう……加えて言えば、この者たちが部屋に潜んでいたことを私は最初から気配でわかっていた」

「何……!?」

「大方、私が来たと聞いて襲撃の件についての沙汰だと気づき、忍ばせておいたのだろう……だからこそ、言い逃れをしているお前はとても滑稽だった」

「ぐっ……!」


 これ以上ラーゲと話などする必要は無いと判断したレザミリアーナは、歩いてソファに座っているラーゲの方に向けて歩く。

 それによってラーゲは恐怖に顔を染めると、ソファから立ち上がって、レザミリアーナの方を向きながら後ろ歩きをしながら言う。


「ま、待て!い、命だけは許してくれ!金ならいくらでも払う!!」

「……」

「あ、あとは、そうだ!屋敷でもアクセサリーでも、好きなものをやろう!!」


 その後もラーゲは命乞いを続けたが、レザミリアーナがそれに靡くことはなく……やがて。


「うっ」


 ラーゲの背中が部屋の壁に当たり、それ以上後退することができなくなった。

 すると、ラーゲは大きな声で言う。


「私が悪かった!必要であるなら、今回襲撃した伯爵家の少年にも謝罪しよう!だから、命だけは────」


 どこまで命乞いを続けるラーゲの言葉を最後まで聞き届けることなく、レザミリアーナは容赦無く斬り伏せた。

 その場に倒れ亡骸となり、沈黙したラーゲのことを見下ろして一瞥すると、これ以上ラーゲについて思考することすら無駄だと判断したレザミリアーナは、ラーゲ公爵家の屋敷を後にした。

 そして、王族用の白い馬車に乗ると、馬車は王城に向けて走り出した。

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