第222話 制裁

◇レザミリアーナside◇

 エリザリーナと別れて王城の外に出たレザミリアーナは、王族の用の白い馬車に乗るとラーゲ公爵家の屋敷へと向かい始めた。


「法が絶対、か……」


 ────エリザリーナにはああ言ったが、正直私も、仮にラーゲがどれだけ反省したとしてもこの怒りを抑えられるかどうかわからないな。

 姉として、そして王族として模範となるよう法が絶対だと伝えたレザミリアーナ。

 だが、ルクスに危害を加えられそうになったことによって怒っているのは、レザミリアーナも同じ。


「ここで頭を巡らせても仕方無いか」


 結局、この件がどう片付くのかは、ラーゲと実際に会うまではわからない。

 そう考えて一度ラーゲについて思考するのをやめると、レザミリアーナはルクスと握手を交わした自らの右手に視線を下ろして小さく呟いた。


「ロッドエル……」


 その後、馬車がラーゲ公爵家に着くまでの間。

 レザミリアーナは、ルクスのことだけを考え続けた……そして。


「第一王女レザミリアーナだ、ラーゲ公爵に折り入って話したいことがある」

「レザミリアーナ様……!?か、かしこまりました!すぐにお話をお通しします!!」


 ラーゲ公爵家の屋敷前に居た門番にそう伝えると、門番は慌てた様子で屋敷の中に駆け込んで行った。

 それからしばらくすると、門番が案内役の使用人を連れて戻ってきた。

 レザミリアーナはその使用人に案内される形でラーゲ公爵家に入ると、その中を歩き……

 ある部屋の前で足を止めると、使用人はドアノブを捻ってレザミリアーナのことを部屋の中に招いた。


「これはこれは、レザミリアーナ様、まさか本当においでになられるとは……先ほど門番からレザミリアーナ様がいらっしゃったと聞いた時は、誤報かと思いましたぞ」


 そう言ったのは、客室のソファに座っている男性、ラーゲだ。

 ラーゲはレザミリアーナよりも二回りほど年を重ねており、公爵というだけあって身なりは整っているものの、体型はやや肥満気味で顎先に髭を生やしている。


「……」


 が、レザミリアーナはそんな目の前のラーゲよりも、周囲に意識を向けて少しの間静かに立ち尽くした。

 すると、そんなレザミリアーナのことを見たラーゲが言う。


「そんなところで立っておらず、そちらのソファに座られてはどうですかな?茶も淹れさせております」


 そう声をかけられたレザミリアーナは、ラーゲの方を向くと間を空けずに答える。


「悪いが、今日は茶を挟んでするような話をしにきたのではない」

「……と、言いますと?」

「私は今日、お前を裁きに来たんだ……お前が刺客を送り、伯爵家のルクス・ロッドエルを襲撃しようとした件でな」

「っ!?な、何のことですかな……?」

「言い逃れは不可能だ、彼に差し向けられた刺客が証人となっている」

「しょ、証人ですと!?そ、そやつは、私を嵌めるために嘘を吐いておるのです!騙されてはいけませんぞ!それに、私が伯爵家の人間に刺客を送る理由など────」

「お前は貴族の位意識の強い人間だ……大方、この間の剣術大会でロッドエルが準優勝を飾ったことが気に入らなかったんだろう」

「なっ……!」


 今の言葉が図星ということを表すように、ラーゲはそう声を漏らした。

 続けて、レザミリアーナが言う。


「一応聞くが、反省の意はあるのか?もしあるなら────」

「反省……?反省などするものか!伯爵家なぞがこの国でも大事な催し事の一つの剣術大会という場で出しゃばりおったから、己の分際を弁えさせてやろうとしただけではないか!何故私が反省などせねばならん!!」

「……」

「しかし、そこまでバレておるなら仕方あるまい────出て来るのだ!」


 ラーゲがそう言った直後。

 部屋の陰から飛び出てきた剣士たち八人が、レザミリアーナのことを包囲した。

 すると、ラーゲは高らかな笑い声を上げて言う。


「はっはっはっ!いくらあなたと言えど、この数の腕利きの剣士を相手にするとなればひとたまりもありますまい!」

「……ふふっ」


 そんな状況下で、レザミリアーナは小さく笑った。

 そのことを不思議に思ったラーゲが、動揺を隠すように声を荒げて言う。


「な、何が可笑しい!!」

「結局は、私もこうしたかったのだとわかっただけだ……もはやこれで、躊躇う必要など一つも無くなった」


 レザミリアーナはゆっくりとした、だが隙のない動作で剣を抜くと────目を虚ろにして言った。


「この私に剣を向けたんだ……お前たちには、この場で命を落としてもらうぞ」

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