第221話 襲撃事件
◇エリザリーナside◇
「あれ、レザミリアーナお姉様!」
王城の廊下内を歩いていると、レザミリアーナの姿を視界に映したエリザリーナはそう声を上げる。
「ん、エリザリーナか」
その声によって自らの方を向いたレザミリアーナの元に駆け寄ると、エリザリーナは言う。
「今日昼から夕方辺りにかけて見なかったけど、どこか行ってたの?」
「あぁ、街でパンを食べにな」
「え〜!パンが食べたかったんだったら、言ってくれたらわざわざ街に行ったりしなくても用意してあげたのに〜!」
「たまには街に出て自らの手で購入したいと思う時もある」
「そういうものなんだ〜」
「そういうものだ……あと、敬語を────」
「ていうかていうか、レザミリアーナお姉様が歩いてる方角的にだけど、もしかしてまた外出ようとしてるの?」
自らの言葉を遮ったエリザリーナに対し思うところがあるのか少し沈黙したレザミリアーナだったが、長年の積み重ねによってもはや諦めているのか、少し間を空けてから言う。
「そうだ、襲撃事件が起きたから、それに対処をしに行く」
「襲撃事件……?もしかして、他国から────なんて、レザミリアーナお姉様が他国交渉してるのにそんなことあり得ないよね」
「己の力量を過信はしていないが、少なくとも今回は違う……今回は、国内の貴族による企てで、同国の貴族が襲撃されたというものだ」
────国内……私の調停してるこの国で、同国の貴族を襲撃?そんなこと起こすバカなんて居るの……?
と思ったエリザリーナだったが、間を空けずに言う。
「国内の話なら私の落ち度だから、レザミリアーナお姉様は何もしなくていいよ……私が対処するから、その襲撃事件について詳しく教えてもらってもいい?」
「たまたまだが、今回私は当事者でもう証人も立てることができている」
「嘘、早っ、じゃあ私要らない感じ?」
「今回に限って言えばそうなるが……念の為、今回の事件の首謀者と被害者だけ説明しておこう」
続けて、レザミリアーナは口を開いて言う。
「今回の事件の首謀者は、ラーゲ公爵だ……その手のことで有名だという剣士に指示を出すことによって、今回の事件を起こした」
「っ……!」
────国内で襲撃事件、それも同国の貴族に対して起こすなんてどこのバカかと思ったけど、あいつね……どうでも良いプライド持ってて面倒だったけど、国内の貴族を襲撃なんて、裁量によっては死刑もあり得るかな。
仮に死刑じゃなかったとしても、顔を見ることが無くなるのは間違いない。
そう考えると、そのあたりの裁量はエリザリーナによってどうでも良かった……が。
次のレザミリアーナの言葉で、その考えは一変する。
「次に被害者は、お前の友人という話だったから少々名を呼ぶのも気が引けるが……ロッドエル伯爵だ」
「っ!?」
その名前を聞いたエリザリーナは血相を変えると、続けて大きな声で言う。
「ロッドエル!?ロッドエルって、ルクス!?」
「その通りだ……だが、安心して良い、仮に私が居なくとも彼なら十分対処できただろうが、その場にはたまたま私も居合わせていたから彼に危害が加えられることなく相手を無力化した」
────ルクスが無事、それは本当に良かった……けど。
エリザリーナは、目を虚ろに変えると、無機質な声を放って言った。
「レザミリアーナお姉様、ラーゲはちゃんと死ぬんだよね?生かしたりしないよね?」
「友に危害を加えられそうになり怒るのはわかるが、あくまでも法が絶対だ、もしも反省の色が見えれば命を奪うことはしない……当然、そうなっても再犯が起きないよう身を拘束するから、そのことは心配しなくてもいい」
「……」
沈黙するエリザリーナの肩に手を置くと、レザミリアーナが普段よりもどこか優しい声色で言った。
「気を落とすなというのは無理な話だろうが、とにかくラーゲのことは私に任せ、お前は気を休めるといい……必要なら、数日休んでも構わない」
「……ありがとう」
「……ではな」
レザミリアーナはエリザリーナの肩から手を離すと、そのまま王城の外へと歩き去って行った。
────それじゃダメだよ、レザミリアーナお姉様……ルクスを傷つけようとした奴の命は、ちゃんと奪わないと……ルクスを傷付けようとした奴が酌量される余地なんて、一つも無いんだから。
「……まぁ、もしレザミリアーナお姉様がラーゲのこと生かしたとしたら、その時は私が代わりに処理したらいっか」
────あと少し、あと少しだよ、ルクス……あと少しで、フェリシアーナの策も、フローレンスも、全部無視して、私がルクスの隣に居られるようになるからね……そうなったら、もう二度とこんなことが起きないように、私が誰よりも近くでルクスのことを守って、幸せにしてあげるから。
その後、ラーゲへの殺意で目を虚ろにしたまま、ルクスへの愛で頬を赤く染めて小さく口角を上げると、エリザリーナも再度足を進め始めた。
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