第218話 レミナの実力

「お、俺を斬るだと!?女!剣術大会で準優勝した男が隣に居るからって調子乗ってんじゃねえぞ!!」

「お前が何を言おうとも関係無い……彼の努力と、その結果を貶めるのであれば、私は絶対にお前のことを許さない」

「許さないだぁ!?」


 レミナさんの言葉を聞いた相手の男性は、顔を怒りで赤く染めて今にも逆上してレミナさんに斬りかかりそうな雰囲気だった。

 僕が悪く言われたことに怒ってくれているのは伝わってきたけど、それでレミナさんが怪我をしてしまうようなことには絶対になって欲しくない。


「レミナさん、下がってください!僕がこの人のことを無力化します!」


 僕は、両手で剣の柄を握ってそう伝えた。

 けど、レミナさんはさらに前に出て目の前の男性との距離を縮める。


「レ、レミナさん!?」

「君の前で剣を振るったことは無かったな……良い機会だ、この機会に私の剣を見せるとしよう」


 レミナさんの剣……そういえば、前に僕の手を見ただけで力量がわかるという話をしていたから、ある程度剣を使えるのかもしれないけど────


「ダメです!下がってください!!」


 それを、僕が戦えるのに戦わない理由にはできない!


「心配することは何も無い……私がこの男に敗北することなど、万に一つもあり得ないのだからな」

「で、でも────」

「女!俺を馬鹿にしやがったんだ、覚悟はできてんだろうな!!」

「……私に覚悟を問いた上に、散々彼を貶める発言をしたんだ────お前こそ、覚悟はできているのだろうな?」


 その言葉には、やはり信じられないほどの力強さが重みが込められている。

 そのレミナさんの圧倒的な雰囲気や言葉の重みを受けた男性は引き攣った表情をしたけど、それを覆い隠すように大きな声を出して言った。


「もう我慢の限界だ!くたばりやがれ!!」


 そのまま剣を抜くと、男性は大ぶりにレミナさんの方に剣を振る。


「レミナさん!」


 僕もすぐに剣を抜き、地を蹴ってレミナさんとその男性の間に割って入ろうとした────けど。


「無駄に大ぶりで剣筋はブレていて、振り方と間合いの管理がなっていない……よくもそれで、あれだけ私に、そして彼に大口を叩けたものだな」


 そう呟いた直後。

 レミナさんは、素早く剣を抜くと、とても速い速度で剣を振って男性の手に持っている剣を弾き飛ばした。


「な……っ!?」


 男性が、自らの手から剣が飛んで行ったことに驚きを隠せない様子で居ると、レミナさんは男性の首元に剣を添えて言う。


「まずは、彼に謝罪の言葉を口にしてもらおうか」

「ひっ……!!」


 無防備な首元に剣を突きつけられたことによって、男性は腰を抜かしてそう恐怖の声を上げた。

 今の一瞬の動きを見て、僕は心の中でとても驚く。

 ────あの人の剣を受け流すならまだしも、弾き飛ばすなんて……!

 あの人の剣を弾き飛ばそうと思ったら、瞬時にあの人の剣の握り方から一番力の込められていない箇所を見破ったり、剣の軌道を予測したりしないとできないはず……

 そんなこと、僕はもちろんまだできないけど、フローレンスさんだってもしかしたらできないって言うかもしれないぐらいのことだ。

 僕がレミナさんの動きを見て唖然として思わず言葉を奪われていると、男性は大きな声で言った。


「お、俺が悪かった!!命だけは許してくれ!!」

「許してくれ?どうやら、まだ状況が見えていないようだな……ロッドエル、すまないが少しここで待っていてもらえるか?すぐに戻る」

「わ……わかりました!でも、その……できれば、あんまり酷いことは……」

「わかっている、あくまでも行いを悔いさせどうしてこんなことをしたのかを聞き出してくるだけだ」

「ありがとうございます!じゃあ、僕はここで待ってますね!」


 その言葉を聞いて安心した僕は、ここで言われた通りにレミナさんが戻るのを待つことにした。



◇レザミリアーナside◇

 レザミリアーナは、ルクスから少し離れた場所にある路地裏まで男のことを連れてくると、剣の柄に触れて重たい声色で言った。


「……彼の前では、彼に余計な不安を与えまいとああ言ったが────もし私の意に背く行動を取れば、私は容赦無くお前を斬る」

「ひっ!!」


 男はその言葉に再度腰を抜かすが、レザミリアーナはそんなことを全く気にせず、鋭い眼光を向けて言う。


「先ほど私たちが居た場所の周囲には不自然なほどに人が居なかったな……だから私も剣を抜くことができたが、おそらく元々はお前が彼に剣を振るうために用意された場所だったのだろう……そして、そんなことは高位の貴族でも無ければ不可能だ────答えてもらうぞ、あの場を用意し、彼に危害を加えるべくお前を差し向けてきた者の名を」


 そう言うと同時に、レザミリアーナは再度鞘から剣を抜いて、男に剣先を向けた。

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