第215話 無意識
「レ、レミナさん!?どうしてレミナさんがこの屋敷に!?」
まさか、今日レミナさんが僕のところに来てくださるとは思ってもいなかったため、思わず驚きの声を上げるとレミナさんが言った。
「以前カティスウェア帝国で出会った時に確認しただろう?いずれ、君の元を訪れても良いかと、今日がその日だということだ」
その話はもちろん覚えているけど、それでも突然だったから驚いてしまった。
でも、せっかくレミナさんが来てくださったのにずっと驚いてばかりなのも申し訳ないため、僕は一度心を落ち着けて言う。
「そういうことでしたら、とても嬉しいです!今日は特に用事も無いので、是非一緒に過ごしましょう!」
「あぁ、そうしよう……君は、相変わらず良い笑顔をする男だな」
レミナさんは、最後に何かを小さく呟いた。
「何か言いましたか?」
「なんでもない、そうと決まれば二人で街へ向かおう」
「はい!」
元気に頷いた僕は、レミナさんと一緒に馬車に乗ると早速街へ向かい始めた。
すると、レミナさんが口を開いて言う。
「そういえば、君の参加した剣術大会、この目でしかと見届けさせてもらった」
「え!?ほ、本当ですか!?」
「あぁ、素晴らしい剣技だった……あれからも鍛錬を積んでいるのか?」
「はい!今まで通りの鍛錬はもちろん、実は────」
レザミリアーナ様から僕がもっと剣を上達する方法を教えていただいた。
と言おうとした僕だったけど、レザミリアーナ様の名前を勝手に出して良いものかわからなかったため、僕は一度言葉を続けるのをやめると改めて言った。
「実は、ある人に剣について教えていただいて、最近はそのことも意識して鍛錬をしているんです」
「そうか、そのある人というのには、一体どんなことを教えてもらったんだ?」
レザミリアーナ様は、僕の剣術大会での全試合を基として、僕にたくさんのことを教えてくださったから、今この場でどんなことを教えてもらったのかと言われてその全てを一言で表すのは難しい。
だけど……
「色々と細かいところも教えてもらいましたけど、僕が一番印象に残ってるのは……僕が、無意識のうちに相手を剣で斬ってしまうことを恐れていて、必要以上に力みすぎていたり、作らなくてもいい隙を作っているということでした」
「……」
「思い返してみれば確かに思い当たる節がたくさんあったので、最近は意識的に力みすぎないようにしてるんです」
僕がそう言うと、レミナさんは少し間を空けてから言った。
「その人物に教わったことが、君の成長を促すことになったなら幸いだ……ところで、その人物は君の目にどう映った?」
レザミリアーナ様が、僕の目にどう映ったか……?
僕がレザミリアーナ様の全てを評することなんてとてもできないけど、それでも僕の目に映ったレザミリアーナ様のことをそのまま言葉で表現するとしたら。
「剣技がとてもすごくて、綺麗で、優しくて、凛々しくて、とても魅力的ですごい人だと思います!」
「っ……!き、君はまた、そうやって、無意識のうちに、私を……」
レミナさんは、一瞬だけ頬を赤く染め……たように見えたと思った直後、僕から顔を逸らした。
「レミナさん……?どうかしましたか……?」
「……なんでもない、気にしないでくれ」
「そう、ですか?」
「あぁ、だが……今、君と顔を合わせて話しをすることは……勘弁してくれ」
レミナさんは、小さな声でそう伝えてきた。
僕と今顔を合わせて話しをすることを……勘弁して欲しい?
よくわからないけど、もしかしたら何か考え事をしたいということかな。
そう解釈することにして、少しの間そのままで居ると、やがてレミナさんは普段通りのレミナさんに戻った。
そして、それからは馬車が街に到着するまでの間、僕は普段通り落ち着いた様子のレミナさんと一緒に、楽しく話しをしながら過ごした。
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