第212話 共通点

「っ……!バイオレット……!」

「バイオレット様……」


 突然バイオレットが出てきたことによって、一瞬意識をそちらに向けた……が。

 シアナがバイオレットに向けて言う。


「バイオレット、そこを退きなさい……私は今から、その女の命を奪わないといけないのよ」

「フローレンス公爵家の屋敷内という、お嬢様でも勝手の利かない場でそのようなことをしてしまっては、お嬢様の立場とて危うくなられてしまいます」

「確かに、そうなると面倒なことが増えるのは事実だけれど……今はもう、そんなこと関係無いわ、私がその女の命を奪うこと以外は」

「それでルクス様と結ばれる道が断たれてしまうとしても、ですか?」

「っ!それは……けれど────」

「先ほどもお伝えしかけたことですが、そもそも第三王女様は誤解なされています……私とルクス様は、第三王女様のご想像なされているようなことは致しておりません」


 二人の会話を静かに聞き届けていたフローレンスだったが、適切だと判断したタイミングでシアナの言葉を遮ってそう伝えた。

 先ほどまでは冷静さを欠いていてフローレンスの言葉が耳に入っていなかったシアナだったが、ここで初めて耳に入ってくる。

 が、バイオレットからフローレンスに視線を向けて言った。


「苦し紛れね、こんな朝からルクスくんとベッドの上で横になって、それもルクスくんのことを抱きしめていたなんて、そういうこととしか考えられないわ」

「状況が状況でしたし、対立関係にある私の言葉を第三王女様がすんなりと受け入れることができないのも理解できます……ですので、後ほどルクス様に昨夜私と何かしたのかをお聞きになられてください────ルクス様のことを愛し、信頼していること……それだけが、私たちの共通点ですから」

「……」


 その言葉を聞き届けたシアナは、手に持っていた短刀をゆっくりと下ろした。

 そして、虚な目と無機質な声をやめて目に普段の輝きを取り戻し、声も普段通り抑揚のある声で言った。


「もう一度聞くけれど、本当にルクスくんとは何もしていないのね?」

「はい、第三王女様もご覧になられた通り、添い寝をさせていただくこと以外は何もしておりませんので、ご安心ください」

「添い寝だけでも十分重罪よ!本当なら今すぐにでも命を奪いたいところだけれど……今は、バイオレットに免じて見逃してあげるわ」

「ご冷静になってくださり、ありがとうございます、お嬢様」


 いつも通り落ち着いた声色でそう言ったバイオレットは、短刀を懐に収める。

 すると、シアナとフローレンスの間に割って入るように立っていたのをやめて、シアナの後ろに控えた。

 それによって、シアナとフローレンスが向き合う。


「言っておくけれど、もしあなたがルクスくんとそういったことをしていたのだとしたら、その時は本当に容赦しないわ」

「問題ありません、私は断じてそういったことはしておりませんので」

「……」


 その言葉を静かに受け取ったシアナはフローレンスから視線を切ると、ドアの方を向いて歩き出す。

 ────あそこまで言うということは、ルクスくんとは添い寝以外何も無かったのでしょうけれど、一応ルクスくんに確認しないわけにはいかないからしっかりと確認しないといけないわね。

 そんなことを考えながらドアの前までやって来ると、そのドアを開いて部屋の外に出た。

 すると……部屋の前でシアナのことを待っていたルクスが、シアナに向けて大きな声で言った。


「ごめん、シアナ!忠告を守れなくて……!シアナが怒ってしまうのも無理はないけど、昨日は眠くて判断力が落ちてたっていうか……とにかく、浮ついた心があったとかっていうわけじゃ無いんだ!僕にできることならするから、信じて欲しい!!」


 ────なんでも……!?

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