第209話 添い寝

「フ、フローレンスさん!?どうし────」


 僕がそう声を上げそうになった時。

 フローレンスさんは、自らの口元で人差し指を立てて言った。


「今はもう遅い時間ですので、あまり大きな声は出されない方が良いかと思います」

「っ……そうですね、すみません、驚いてしまって……」

「いえ、私の方こそ突然のことで驚かせてしまい、大変申し訳ありません」


 ひとまず、このまま部屋のドアを開けたまま立ち話をするわけにもいかないため、フローレンスさんのことを部屋に招く。

 そして、向かい合うようにソファに座ると、僕はフローレンスさんに聞いた。


「フローレンスさん……どうしてこんな時間に、僕の部屋へ?」


 先ほど聞きそびれた単純な疑問を改めて投げかけると、フローレンスさんは僕の目を見て言った。


「愛する方が私と同じ屋根の下に居て、会おうと思えば会える距離に居るのです……それだけでは、私がルクス様にお会いする理由として不十分でしょうか?」

「っ!い、いえ、そんなことは……」


 フローレンスさんが僕に抱いてくれている気持ちを考えたら、確かにそうするのは自然なこと……だけど、やっぱり何度聞いても愛する方と僕が表現されるとどうしても照れてしまう。

 薄明かりに照らされた部屋の中で僕がそんなことを思っていると、フローレンスさんは聞いてきた。


「ルクス様は、私がこの部屋に来るまでの間、何をされていらっしゃったのですか?」

「読書をしていました」

「なるほど……でしたら、ちょうど私もこの部屋にある本棚の本の中で読みたいと思っているものがありましたので、二人で一緒に読書をしましょうか」

「せ、せっかく来ていただいたのに、それだけで良いんですか?」

「はい、私はルクス様とお時間を共有することができるのであれば、それだけで幸せですから」


 そう言って、フローレンスさんは優しく穏やかに微笑んだ。

 ……薄明かりの中でもハッキリと見えるその表情に温かいものを感じながら、僕はそういうことならとフローレンスさんの提案を受けることにすると、それから二人で黙々と読書を始めた。


「……」

「……」


 読書をするのは楽しいからいつまでもしていたいけど、読書中は時の流れ普段よりも何倍も早く感じられて、気が付けば僕は思わず目を擦るほどに眠たくなってしまっていた。


「眠気が来られているようですね」

「はい、すみません……いつもだったら、そろそろ眠っている時間なので……」

「そうでしたか……では、体調を崩さないためにも、本日はもうお休みになられることをお勧め致します」

「そう、します」


 眠気がありながらも、いつもの習慣で読んだページのところにしおりを挟んでから本をテーブルの上に置く。


「フローレンスさん、見送らせてもらいますね」


 フローレンスさんを無視してそのままベッドで眠るわけにもいかないため、そう言って立ち上がった僕……だったけど、フローレンスさんは言う。


「いえ、せっかくですので、本日はルクス様がお眠りになられるまでの間、ルクス様のお傍に居させていただこうと思います」

「……わかりました、慣れないところで眠れるかほんの少しだけ不安でしたけど、フローレンスさんが傍に居てくださるんでしたら、安心して眠れそうです」

「っ……!」


 僕は思ったことをそのまま口にすると、重たい瞼をどうにか開きながらベッドに向かう。

 そして、ベッドに到着すると、僕はすぐに布団を被って横になった。

 そんな僕の眠っているベッドの横に、フローレンスさんが来てくれる。


「フローレンスさん……今日はありがとうございました、色々と大変なこともありましたけど、このお泊まり会、とても楽しかったです」

「ルクス様……」


 僕の名前を呟くと、フローレンスさんは僕の横になっているベッドに座った。

 そして、続けて言う。


「私がお傍に居ると安心して眠れると、ルクス様は仰ってくださいました……でしたら────」


 フローレンスさんは、そう言いながら僕の被っている布団の中に入ってくると、僕の隣で横になって言った。


「こうすれば、もっと安心して眠れるのでは無いですか?」

「え……?で、でも、これは────」


 目の前にあるフローレンスさんの顔を見て困惑しそうになっていると、フローレンスさんは僕のことを抱きしめて言った。


「大丈夫です……ルクス様、私はいつでもお傍に居ますので、今はお眠りになられることだけお考えください」

「……」


 色々と思ったことがあったような気がするけど、今は眠気と、フローレンスさんが隣で僕のことを抱きしめてくれている温もりから伝わる安心感しか感じることができず、僕はそのまま静かに眠りへと落ちた。


「ルクス様、愛しています……必ず、私がルクス様のことを守り、ルクス様のことを幸せにして差し上げます……ルクス様……」

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