第206話 一端
◇ルクスside◇
「────お二人の淹れてくれた紅茶、茶葉がちょうど反対の味で、交互に飲むと今までに無い美味しさを感じることができてとても楽しかったです!」
「それは良かったです」
「ご主人様が気に入ってくださったのでしたら、私も何よりです!」
二人の淹れてくれた紅茶を飲ませていただいた僕がその感想を伝えると、二人はとても嬉しそうにしていた。
すると、少し間を空けてからフローレンスさんが言う。
「では、ルクス様……お体も温まられたところで、今から私と共にお風呂へと参りましょうか」
「えっ!?フ、フローレンスさんと一緒に、ですか?」
「はい、以前も一度共に入りましたが、あの時がとても楽しかったので、是非今夜もと思い誘わせていただいた所存です」
フローレンスさんと、また一緒にお風呂……僕は、フローレンスさんがその時のことを思い出すような言葉を使っていたので、僕もその時のことを思い出す。
すると────脳裏には、とても魅力的なお体をしたフローレンスさんが浮かび、僕は顔に熱を帯びさせると、すぐに首を横に振ってその考えを払った。
直後、シアナが言う。
「お待ちください、フローレンス様!ご学友であられるフローレンス様にそこまでのことをしていただくわけにはいきませんので、ご主人様のお風呂のお相手は、従者である私がさせていただきます」
「え!?」
シ、シアナと!?
……シアナとお風呂に入った時と言えば、僕確かシアナに何も着ていない状態で直接抱きしめられてしまって────っ!
こ、こんなことを思い出したらダメだ!!
シアナやフローレンスさんとお風呂という単語を聞くと、どうしてもそういった刺激的な記憶を思い出してしまうけど、僕はどうにかそれを振り払おうとする。
「私とルクス様は学友という表現だけではとても足らぬ関係性ですので、その点の心配は要りません……それに、客人のお相手をさせていただくというのは至極当然のお話だと思われますよ」
「ですが、ご主人様の従者である私が居ない状況であればまだしも、私が居る状況にも関わらずフローレンス様がご主人様と共にお風呂にお入りになられるというのは、あまり心象が良くないと思います!」
「先ほどのあ〜ん、なるものの時と同様、この場には私たちしか居ないのですから他の心象など気にする必要はありま────」
そんな二人の話し合いは長い間続き……その末に。
「……」
僕は────今、心拍数を高めながら、二人が僕の居るこのお風呂場に入ってくるのを、静かに待っていた。
◇シアナside◇
「自分の屋敷のお風呂ということを利用してルクスくんとどんなことをしようとしていたのか知らないけれど……残念だったわね、好きにはさせないわよ」
フローレンス公爵家の屋敷の脱衣所で服を脱ぎながらシアナがそう言うと、フローレンスもその隣で服を脱ぎながら言った。
「ご心配なさらずとも、第三王女様のご想像なされているようなことをするつもりはありませんでしたよ」
「どうかしらね」
「……ルクス様の妻になると願う上で、リラックスできるお風呂という場でルクス様のことを心地良くして差し上げるもの妻としての役目ですが、第三王女様はそういったことができるのでしょうか?」
「当然よ」
「でしたら、この機会にお手並みの方を拝見させていただこうと思います」
そう会話をしながら、二人は服を脱ぐ。
すると、シアナは体の局部を隠すように手にタオルを持ち、フローレンスは体全身にバスタオルを巻いた。
「……第三王女様、そちらの格好はルクス様にとって、刺激の強いものなのではないですか?」
「そうかしら?まぁ、フローレンスの体なんてものがルクスくんの目に映ったら大変だから、あなたがそうしてタオルで体を覆っていることに関しては良いことね」
「私はルクス様の心理状態や関係性も考慮した上でこうしているのです」
そう言い合いながら二人でルクスの待っているお風呂場のドア前に立つと、シアナが言った。
「私がルクスくんと結ばれるべき理由、その理由の一端を、このお風呂場であなたに教えてあげるわ」
「それはこちらの言葉です……ルクス様の妻となるべき相手が第三王女様でなく私であること、その理由の一つをこのお風呂場にてお見せ致しましょう」
互いにそう宣言し合うと、二人でドアを開けてルクスの待つお風呂場の中へと入って行った。
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