第205話 玉座の間

「開けて」


 普段と変わらない様子で玉座の間の扉前までやって来たエリザリーナが、扉の前に居る二人の兵にそう伝えると、その二人はゆっくりとその扉を開けた。

 玉座の間には左右対称に数本の柱が立っており、扉から真っ直ぐに続くレッドカーペットの先には玉座がある。

 エリザリーナは、扉の奥に進むと、そのまま玉座へと続くレッドカーペットの上を歩いて行き────玉座に座るエリザリーナの父、国王の御前までやって来ると、片膝をついて言った。


「お父様、お元気そうで何よりです」

「……」


 それを見た国王は、少し間を空けてから言った。


「いつもは親子だから、誰も見ていないから、などと理由を付けて膝をつくことを嫌っている節のあるエリザリーナが膝をつくか……それだけ、今日この場に姿を見せたことには意味があるということか」

「はい」


 ────いつもの定期報告だったら、わざわざ膝をつくことすら面倒だけど、今日伝えることは内容が内容だから、私が本気だってことを証明するためにも一応礼儀に則っておかないとね。


「ならば、面を上げてそれを申してみよ」

「わかりました」


 そう言うと、エリザリーナは言われた通りに顔を上げて、威厳ある顔つきをしている国王と顔を見合わせて言った。


「私、第二王女エリザリーナは────ある男性と婚約することに決めました……まだ話は通っていませんが、話が通った時のため、すぐに婚約を可能とすべく、お父様には今のうちに許可を頂きたいと思い、本日はこの玉座の間へと馳せ参じました」

「ほう……エリザリーナが、ようやく婚約者を見つけたか……相手は王族か?それとも貴族か?」

「この国に居る、今年で十六歳となる伯爵家の貴族です」

「……」


 エリザリーナからその言葉を聞いた国王は、眉を顰める。

 その表情から感じる威圧感だけでも、並の公爵家の人間であれば臆してしまうほどだが、エリザリーナは表情一つ変えず、心も全く揺らがない。

 そんなエリザリーナのことを見た国王は、一度溜息を吐いてから言う。


「エリザリーナと言い、フェリシアーナと言い、どうしてよりにもよって伯爵家の人間なのだ」

「お言葉ですが、愛に爵位は関係ありません」

「お前たちは国王の娘、つまり王族なのだ……愛という感情は重要かもしれんが、王族であるお前たちが何よりも考えるべきはこの国の将来と民のこと、それらを考えれば、王族であるお前たちが婚約すべき相手は、間違ってもまだ十代半ばの伯爵家の男などよりも────」

「お父様」


 エリザリーナは暗く重たい声色でそう言うと、国王に虚な目を向けて言った。


「彼のことを侮辱するんだったら、お父様でも許さないよ」

「……」


 それに対し国王は何も言わなかったが、続けてエリザリーナは虚な目をやめると、笑顔で言った。


「なんて!今のは、いくらなんでもよくなかったよね!ごめんなさい、お父様!!でも、お父様は一つだけ勘違いしてるみたいだから、それだけ伝えても良い?」

「……なんだ」


 エリザリーナは、思ってもいない便宜上の謝罪をすると、ハッキリと言った。


「私は何も、感情だけで彼と婚約したいって言ってるわけじゃないよ……もし私と彼が婚約して、この国を二人で動かせるようになったら────この国はもっと良くなって、私が調停なんてする必要も無いぐらい平和になると思うよ……だから、もちろん感情も大きな理由にはなってるけど、それに加えてこの国の将来もちゃんと考えた上での答えってこと……それだけは、ハッキリ伝えとこうと思って」

「……」

「それだけです!今すぐ許可を取るのは難しそうなので、私はこれで失礼しま〜す」


 そう言うと、エリザリーナは国王に背を向け、そのまま玉座の間を後にした。

 ────危な〜!あとちょっとルクスのこと侮辱されてたら何してたかわからなかったよ……お父様から許可を取ることが成功しないなんて想定内っていうか、むしろその前提で動いてるから、あとは本当にを待つだけだね〜!はぁ、ルクス、早くルクスの幸せな顔見たいな〜!

 そんなことを思いながら、エリザリーナは王城の廊下を歩き自室へと戻ると、再度ルクスに関する妄想を始めた。

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