第204話 妄想

 ────従者としてなら、ルクスくんの傍に居ても何も言わない?

 ────それで争うことが無くなる?

 ────平和的解決法?

 それらの言葉を受けたシアナは、ホワイトブリムを外してシアナとしての髪型を崩すと、第三王女フェリシアーナとしての髪型になって力強く言った。


「私のルクスくんへの愛も低く見積もられたものね……この国の第三王女であり、ルクスくんのことを誰よりも愛している私が、ルクスくんとフローレンスの婚約を見過ごして、ルクスくんの従者として生き続ける道なんてあるわけがないでしょう?」

「……」

「ルクスくんのために争うことも、その手を血で染める覚悟すら無いのなら、ルクスくんが幸せになるということだけは保証してあげるから、ルクスくんから手を引いてくれるかしら」


 シアナの力強い言葉をその身に受けたフローレンスは、少し間を空けてから目を閉じ、再度目を開いて言った。


「第三王女様であればそう仰られると思いましたが、私には第三王女様と争わなくても良い道が、これしか思いつかなかったのです」

「道ならあるわ、あなたがルクスくんから手を引いてくれるのなら、私はこの国の将来を担う才覚を持つあなたと争わないどころか、優遇したって良いほどよ」

「それは、やはり出来ないお話です……ルクス様のためとはいえ、その手を血で染めることを厭わない第三王女様にルクス様のことをお任せすることはできませんし、何よりも────私は、ルクス様のことを愛しているのですから」


 フローレンスは、思いの込められている口調でそう言った。

 そして、少し間を空けてから言う。


「ところで、第三王女様……先ほど、興味深いことを仰られていましたね」

「何の話かしら」

「第三王女様が、ルクス様のことを誰よりも愛しているというお話です」

「興味深いかしら?ただの事実を伝えただけよ」

「それはいかがでしょうか────とお伝えさせていただきたいところですが、ルクス様を待たせてしまっていることですし、このお話はまたの機会にして、そろそろ紅茶の準備を再開すると致しましょうか」

「そうね……その話を今度しても、答えは変わらないと思うけれど」


 そう言うと、ホワイトブリムを付けて髪をシアナとして整え直すと、二人は紅茶の準備を再開し始めた。



◇エリザリーナside◇

「────うんっ!これでやっと色々とが終わったから、あとはその日が来るのを待つだけ〜!」


 自室の中でそう声を上げたエリザリーナは、すぐにルクスのことを想像しながら、頬を赤く染めて呟く。


「あ〜!待っててね、ルクス!私が、フェリシアーナとかフローレンスとかと結ばれるより、絶対に幸せにしてあげるから!そうだ、流石に考えづらいけど、もし予想以上に順調に行った時のこととかを考えてどこで式するかとかも考えとかないと!」


 そのことを紙にまとめようとしたエリザリーナだったが、式という言葉に付随して別のことが頭に浮かぶ。


「待って待って、その前に、ウェディングドレスの試着とかもした方が良いよね!?ルクスのお嫁さんとして出るんだから、妥協せず一番可愛いのにしないと!あ、でも、そういう場だったら可愛いとかよりも綺麗の方が良いのかな?悩む〜!……ていうか、そうだ!そうなったら、ルクスの新郎服についても考えておかないと!ルクスそういうのわからなそうだから、私が選んであげよ〜!でもルクスかっこいいからどれでも似合っちゃって絶対それも悩んじゃうよね〜!」


 しばらくの間、自室で一人幸せな妄想をしていたエリザリーナだったが、あと一つだけ念の為にしておいた方が良いことを思い出す。


「これは成功しても成功しなくても良いけど、一応今からしに行こっかな〜」


 そう呟いたエリザリーナは、椅子から立って自室を出ると、両腕を伸ばしリラックスしながらへと向かった。

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