第203話 平和的解決法
◇ルクスside◇
二人にあ〜んをすると言われて、僕の口元に料理が差し出されたときはどうなることかと思ったけど、その後は特に変わったこともなく、三人で美味しく目の前の料理を食すことができた。
「フローレンスさんのお家の料理、とっても美味しいですね!素材からこだわっているというのがとても良く伝わってきます!」
もちろんロッドエル伯爵家の料理人さんたちが作ってくれる料理も美味しいけど、フローレンスさんの家の料理は別系統の美味しさを感じる。
「ありがとうございます……以前もお伝え致しましたが、フローレンス公爵家は農業の方も営んでおりますので、種類や素材選びには自信があるのです」
「なるほど……!」
だから、見たことの無い野菜や果物があったんだ!
こうして実際に自分の口で味わわせてもらうと、フローレンスさんの家がすごい家なんだということを、深く理解することができる。
「では、ルクス様……次に、食後の紅茶はいかがですか?」
「こ、この料理だけでも贅沢だったと思いますけど、そんなものまでいただいてしまっても良いんですか?」
僕が少し動揺しながら聞くと、フローレンスさんは優しく微笑んで言った。
「はい、むしろ、このくらいのことはしないとフローレンス公爵家の名折れとなってしまいますので」
「っ!じゃあ……いただきたいです!」
「わかりました……では、早速ご準備をして参りますので、お二人はこちらの食堂で────」
「お待ちください!」
そう言いながら席を立ったフローレンスさんの言葉を遮るようにシアナがそう言うと、シアナもフローレンスさんと同じく席から立ち上がって言った。
「フローレンス様、私もご主人様に食後の紅茶を淹れて差し上げたく思いますので、その場をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、従者の方が主人に紅茶を淹れることを止める理由などありませんので、もちろん構いません、でしたら二人で参りましょうか」
「ありがとうございます!ではご主人様、私はフローレンス様と共にご主人様へ紅茶を淹れて参ります!」
「うん、ありがとう、シアナ」
僕がそう伝えると、シアナは嬉しそうに微笑んだ。
客人としては、このまま席に座ってフローレンスさんを待っているべきなのかもしれないけど、それだけシアナが僕のことを思ってくれていると考えたら、僕はそのことが嬉しかった。
そして、二人は僕に一度頭を下げると、この食堂を後にしたため、僕は二人が戻ってくるまでの間、この食堂にある植物や綺麗な風景画を眺めることにした。
「……そうだ、二人とも紅茶が好きで、前も紅茶の話で盛り上がっていたと言っていたから、今も二人で楽しく紅茶の話でもしてるのかな」
その光景を想像するだけで、僕は二人が戻ってくるのを待っている時間すらも、とても楽しく感じられた。
◇シアナside◇
シアナとフローレンスは、二人でフローレンス公爵家の屋敷内廊下を歩き、紅茶を淹れるための茶葉や道具が一式揃っているキッチンへとやって来た。
廊下には、フローレンス公爵家の使用人が所々に居たりするが、本日の夜の料理を作り終えた今、キッチンには誰も居ない。
つまり────シアナは今日この屋敷に来て始めて、本音で話せるということだ。
「あなた、私が自由に動けないからって随分と調子に乗っているわね、ルクスくんと肩を触れ合わせたり、ルクスくんにあ〜んをしようとしたり、一体どういう当てつけなのかしら?」
紅茶を淹れる準備をしながらそう話すシアナに、同じく隣で紅茶を淹れる準備をしながら、フローレンスが言う。
「そのようなつもりはありません……私は、第三王女様が居なかったとしても同じことをしております……ですが、ルクス様が私と第三王女様に差し出されたお料理を同時に口に含めたことによって、第三王女様にもルクス様にあ〜ん、というものを許してしまったことは不覚です」
「私があなたの思うようにさせるはずがないでしょう、今夜もまだ何かを企んでいるのでしょうけれど、全て無為にしてあげるわ」
「……」
シアナがそう言うと、フローレンスは一度紅茶を準備する手を止めた。
そして、間を空けてから言う。
「第三王女様……以前、バイオレット様が仰っていたことを覚えておいでですか?『私にはお二人が争われている理由があまり理解できません』という言葉です」
「えぇ、どうしてバイオレットがそんなことを思っているのかは、私にもわからないけれど」
「私もそう思っておりましたが……もし、第三王女様が、次に私がする提案を承諾してくださるのでしたら、私は今後第三王女様と争うことを避けたいと思います」
────フローレンスが、私と争うことを避ける……?この間互いにルクスくんと婚約したいと宣言しあったのに、いきなりどういうことかしら。
疑問が浮かんだシアナだったが、その疑問を解消するためにもフローレンスに言う。
「話だけは聞いてあげるわ、何かしら」
シアナがそう言って紅茶を準備する手を止めると、フローレンスはシアナの目を見て言った。
「第三王女様には、ルクス様との婚約を諦めていただきたいのです」
「っ!?そんなことできるわけ────」
「ですが、その代わりに、自らのことを偽り、ルクス様の従者であるシアナさんとして第三王女様がルクス様のお傍に居続けることに関しては、私はもう何も言いません……これにより、私たちは今後争うことなく、互いにルクス様のお傍に居続けることができるのです────こちらの平和的解決法としての提案を、承諾してはいただけませんか?」
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