第201話 フローレンス家の食堂
荷物を、今日僕たちがそれぞれ眠る部屋に置かせてもらうと、僕とシアナの前を歩くフローレンスさんが言った。
「本日は貴族学校での授業はもちろん、剣術の授業で体を動かしたことでルクス様もお疲れだと思われますし、シアナさんもロッドエル伯爵家のメイドとしてのお仕事でとてもお疲れのことでしょう……ですので、フローレンス公爵家の料理を食し、心身ともにお癒しになられてください」
「ありがとうございます!とても楽しみです!」
僕がフローレンスさんにお礼を伝えると、フローレンスさんは微笑んだまま歩き、ある扉の前で足を止めるとその扉を開けて中に入った。
そのフローレンスさんに連れられる形で、僕とシアナもその中に入ると────そこには、たくさんの料理がテーブルの上に並べられている食堂があった。
「……」
ロッドエル伯爵家の食堂とはまた違った雰囲気で、植物や綺麗な風景画が飾られていた。
他の貴族の人の食堂、それも公爵家の人の食堂に来ることなんてほとんど無いため、僕はこの食堂の光景に少し目を奪われる。
「さぁ、ルクス様、こちらへお掛けになられてください」
「は、はい!」
その声を聞いてすぐに意識を目の前の料理に戻した僕は、フローレンスさんに促された通りに、フローレンスさんの右隣の席に座った。
「シアナさんも、本日は客人なのですから、どうぞそちらの席へお掛けになられてください」
「……ありがとうございます!」
そう言うと、シアナは僕の右隣に座って、僕たち三人が席についたところで、早速一緒に料理を食べ始めることになった。
◇シアナside◇
「初めて食べましたけど、この果物すごく美味しいです!」
「ふふ、お口に合ったようで何よりです……そちらの果物は、今の季節しか取れない貴重なものなのですよ」」
「そうなんですね……!こっちのお野菜もあまり見ないものだと思うんですけど、これはどういったものなんですか?」
「そちらは────」
目の前にある料理を食べながら、ルクスがその料理についての感想を楽しそうに話している。
シアナにとって、ルクスが楽しんでいるのであればそれは何より……だが。
────この女……私が今はシアナだからと、私が居ることも気にせずにルクスくんと楽しそうに話して……今なら何だか、バイオレットの気持ちが少しわかるわね。
自らの想い人が他の女性と楽しそうに話している。
それも、互いにルクスと婚約をしたいと宣言し合った状態で目の前でそれが行われているとなると、シアナにとってはあまり居心地が良くなかった。
「そういったものがお好みでしたら、こちらのお野菜もお口に合われると思いますので、良ければお食べになってみてください」
「本当ですか!?食べてみます!!」
ルクスが、その野菜を乗せたお皿をフローレンスから受け取ると同時に、ルクスとフローレンスの肩が触れ合う。
そして、美味しそうにその受け取った料理を食べているルクスの横で、シアナは心の中で怒りを抱く。
────この女……!!私の目の前でルクスくんと肩を触れ合わせるなんて……!!
そう思いながら、シアナはフローレンスに対して言う。
「フローレンス様、少々ご主人様との身的距離が近すぎるのでは無いですか?」
「そうでしょうか?学友であれば、このくらいは普通だと思われますよ……それはそれとして、シアナさんはあまり料理を食べられていないようですね、ご心配なさらなくとも変なものは入っておりませんので、私のことなど気にせず目の前の料理をお食べください」
「……はい、ありがとうございます」
────ルクスくんのことを、自分の家に招いているフローレンスのことを気にせずなんて無理に決まっているわ!絶対にこのお泊まり会の間でルクスくんに何かを仕掛ける気よ!
そう思いながらも、シアナが目の前の料理を口に含めると同時に、フローレンスが言った。
「ルクス様……このようなことを言うと品が無いと思われてしまうかもしれませんが、今は屋敷内で第三者に見られることは無いという状況ですので、恥を忍んで一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「はい、なんでも言ってください!」
ルクスがそう言うと────フローレンスは、頬を赤く染めて言った。
「ありがとうございます……では、ルクス様さえよろしければ────今から私と、あ〜ん、なるものを行いませんか?」
────あ、あ〜ん!?
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