第199話 愛

◇ルクスside◇

「ルクス様、おはようございます」

「おはようございます、フローレンスさん!」


 ────休日明け。

 貴族学校に登校すると、僕とフローレンスさんはいつも通り挨拶を交わした。

 そして、僕がもうすでに席に着いているフローレンスさんの隣の席に座ると、フローレンスさんが言った。


「休日以来ですね……あの時は、ルクス様と第三王女様が街で共に居ることに、とても驚きました」

「僕も、まさかフローレンスさんとお会いすることになるとは思ってなかったので、本当に驚きました」


 一度軽く言葉を交わすと、フローレンスさんは少し間を空けてから聞いてくる。


「あの日を過ごすことになったのは、どちらからのご提案だったのですか?」

「フェリシアーナ様からです、最近あまりお会いできていなかったからと、僕に手紙を送ってくださりました」

「……なるほど」


 何かに納得したように、フローレンスさんは頷いてそう呟くと、続けて言った。


「ルクス様が第三王女様と過ごされていたのを見たからというわけでは無いのですが……私も近々、ルクス様とお時間を過ごさせていただきたいのです」

「っ……!」


 色々と考えないといけないことはあるにしても、フローレンスさんが僕と時間を過ごしたいと仰ってくださるのは、僕にとって純粋に嬉しいことのため、僕は思わずそう声を上げると、続けて頷いて言った。


「わかりました!剣術大会も終わって最近はかなり落ち着いて来てるので、是非過ごしましょう!どこか街に出かけますか?」


 僕がそう聞くと、フローレンスさんは首を横に振って言う。


「いえ、今回はよりお互いのことを知るべく────ルクス様と、お泊まり会をさせていただきたいと考えています」

「え!?」


 お、お泊まり会……!?


「もちろん、このようなことを無理強いは致しません……が、将来ルクス様と結ばれることを考えた時に、今のうちから一日という時間を通してルクス様と時間を過ごさせていただきたいと思ったのです」


 フローレンスさんと、お泊まり……考えただけで緊張するけど────フローレンスさんがここまで僕との将来を考えてくれているのに、僕がそれから逃げるなんてことは絶対にできない。


「そういうことなら……しましょう!」

「っ!良いのですか?」

「はい!」

「ありがとうございます、ルクス様」


 フローレンスさんが優しい表情で微笑んでそう言うと、僕たちはいつ、どちらの屋敷でお泊りするのかを話し合った。



◇レザミリアーナside◇

 ────週明けから数日後の王城内の食堂。

 長いテーブルの中央で、レザミリアーナとエリザリーナは向かい合って昼食を食べていた。


「街の高級店も美味しいけど、やっぱり王城の料理人の料理は、一つ一つの素材にもこだわってるから安定して美味しいよね〜!」

「そうだな」


 普段通り明るく口数の多いエリザリーナにそう相槌を打ちながらも、レザミリアーナはエリザリーナの件で気になっていたことを口にした。


「少し前から慌ただしくしているようだが、職務で何か問題でもあったのか?」

「あ〜、確かに慌ただしくはしてるけど、可愛くて頭も良い私は、相変わらず揉め事が起きるたびに完璧に調停してるから、別に職務に問題があったわけじゃないよ?」

「そうか、ならどうして慌ただしくしているんだ?」

「いくらレザミリアーナお姉様でも、それはまだ秘密かな〜」


 週明け辺りから、エリザリーナが職務の時間でも無いのに動きを見せていることが気に掛かっていたレザミリアーナだったが、ひとまず職務に問題が無いということで今は納得しておくことにした。

 すると、エリザリーナは少し間を空けてから落ち着いた声色で言う。


「ねぇ、お姉様……お姉様も、もし何か欲しいものがあるんだったら、余計なこととか考えずにそれを手に入れに行った方が良いよ────じゃないと、他の誰かに奪われちゃうから」


 今までとどこか雰囲気の変わったエリザリーナの言葉が妙に頭に残り、レザミリアーナは小さく呟く。


「……私の欲しいもの、か」


 ────今、私が一番欲しいものは……力でも、財でもない。

 そう考えながら目を閉じると、瞼の裏にはルクスが映る。

 ────そう……君だ、ロッドエル……私は、君が欲しい……だが、そうか……このままだと君は、他の誰かに奪われてしまうのか。

 レザミリアーナが目を瞑りながらそんなことを考えていると、エリザリーナが普段通りの明るい声色で言った。


「な〜んて、お姉様にはこんな言葉、余計なお世話だった?」

「……いや」


 ────私は君の隣で、君を支えたい……他の誰でもなく、私の手で、君のことを幸せへと導きたい……そうか、この気持ちこそが……

 ゆっくりと目を見開くと、レザミリアーナは力強く言った。


「おかげで私も、今すべきことが見えた」


 ────他の誰でもなく、自らの手で幸せにしたいと願う気持ちこそが、愛……ロッドエル……この手で、私が君のことを幸せにしてみせよう。

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