第198話 愛の解放

◇フローレンスside◇

 お花を購入したフローレンスは、それを持ってフローレンス公爵家の屋敷に帰り、自らの手でそれを庭に生けると、新たに庭に加わったお花を眺めながら紅茶を楽しむことにした。

 そして、それと同時に思考する。


「互いにルクス様と婚約したいという意思をルクス様の目の前で表明し合った以上、ここから先は、今まで以上に本格的に私と第三王女様の二人でルクス様を巡ることとなるでしょう……」


 フローレンスは紅茶を一口喉に通し、ゆっくりとした動作でティーカップをテーブルの上に置く。


「そして、そのことにおいて重要なのは、私がどれだけルクス様と関わりたいように関わり、同時に第三王女様の好きにさせないか、ということですが……」


 その点において、フローレンスは少々不利な状況だった。

 フェリシアーナの、ロッドエル伯爵家のメイド、シアナという立場があれば、屋敷に居る時のルクスに対して自由にアプローチをすることができるからだ。


「こうして火蓋が切られてしまった以上、第三王女様の性格を考えれば、すぐにでも何かしらの行動を起こされてもおかしくありません……」


 せめて、少しの間だけでもフェリシアーナに自由を与えない方法。

 それを考えた結果────フローレンスは、ある一つの答えに辿り着いた。


「これであれば、第三王女様にお好きにさせないだけでなく、私がルクス様へアプローチをするという点においても大きく貢献してくれるかもしれません……ルクス様が受け入れてくださるかどうかはわかりませんが、休日明けに提案してみることと致しましょう」


 フローレンスは小さく口角を上げながらそう呟くと、再度紅茶を一口飲む。

 そして、紅茶の味を楽しみながら、今フローレンスが考えていることが実現することを、フェリシアーナに好きにさせないためという点以上に、純粋な気持ちで楽しみにしていた。



◇エリザリーナside◇

 ────翌日。

 朝から街で仕事を終えて、昼間に王城に戻ってきたエリザリーナの心中は、穏やかではなかった。

 何故なら、今日仕事で話してきた貴族から、昨日フェリシアーナが男性と街を歩いていたという噂を聞いたからだ。


「フェリシアーナが男と街を歩いてたって、もしその話が本当ならその男っていうのはルクスのことだと思うけど、シアナとしてじゃなくてフェリシアーナとしてそこまで大胆な行動を取るとは思ってなかったな〜」


 大体のことは全て想定内のエリザリーナだが、ルクスのことと、突拍子も無く起きる、フェリシアーナの暴走とも表現することのできる行動については、予測することができなかった。

 エリザリーナがそんなことを考えながら王城の廊下を歩いていると────ちょうど、そのタイミングで、正面から同じく王城の廊下を歩いているフェリシアーナがエリザリーナの方向に向けて歩いてきた。


「あ!フェリシアーナ!ちょうど良いところで会ったから聞きたいことがあるんだけど、昨日フェリシアーナが男と街で歩いてたって噂は本当?」


 エリザリーナがそう聞いて足を止めると、フェリシアーナもエリザリーナと同じく足を止めて、エリザリーナに向かい合うようにして答える。


「えぇ、本当よ」

「その相手は?やっぱりルクス?」

「当然よ、私がルクスくん以外の男性と街を歩いたりするはずないでしょう?」


 フェリシアーナが男性と街を歩いているという話を聞いた時点でそれはわかっていたため、そのことに対して驚きはしない……が。


「いくらフェリシアーナでも、今回は暴走が過ぎたんじゃないかな?ルクスと婚約することに関してお父様に許可も取ってなくて、ルクスにプロポーズもしてないような状況で堂々と街を歩くなんて、もし噂が変に肥大化したらフェリシアーナにとって厄介な────」

「お父様への許可はともかく、ルクスくんへのプロポーズならもう済ませてあるわ」

「……え?」


 エリザリーナが珍しく素直に驚くと、フェリシアーナはそのことを気にした様子もなく、続けて言った。


「今までは、目立った動きを始めるタイミングが無かったけれど────これからは、ルクスくんと結ばれるために直接的な行動を取っていくつもりよ……私はそのための準備があるから、これで失礼するわ」


 それだけ言い終えると、フェリシアーナはエリザリーナを横切って、すぐに廊下の奥へと歩いて行った。


「そっか、もうプロポーズまで済ませてるんだ……」


 フェリシアーナの方がルクスと先に出会い、ルクスのことを先に好きになっているため、エリザリーナよりも関係性の進展が早いのは普通に考えれば当然のこと。

 だが────


「私の方が絶対にルクスのこと大好きなのに、そんなの……」


 ルクスへの思いは自らの方が大きいと考えているエリザリーナは、それらを理由に現状に対して納得することなどできなかった。


「ルクス……大好き、大好き、大好き……!」


 頬を赤く染めながらルクスのことを思い浮かべて、ルクスへの愛を言葉にすると、続けてエリザリーナは落ち着いた表情で言った。


「良いよ、フェリシアーナがルクスへの気持ちをもう抑えないって言うんだったら────私も、もう抑えたりしない」


 フェリシアーナがもうルクスにプロポーズをしていたという予想外のことや、フェリシアーナの雰囲気がどこか変わったのを目の当たりにしたエリザリーナは、それを受けて、自らもルクスへの溢れるほどの愛を抑えず、解放することに決めて、再び王城の廊下を歩き出す。

 ────待っててね、ルクス……私がいっぱいルクスのことを愛して、幸せにしてあげるからね。

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