第196話 断言

◇シアナside◇

「ルクス様、第三王女様」


 しばらく三人でお花を見た後、フローレンスが二人のことを改まって話しかける。


「私は元々の目的であったお花を購入させていただこうと思いますので、本日はこれにて失礼致します……楽しい一時を過ごさせていただき、ありがとうございました」


 フローレンスがいつも通り穏やかな雰囲気でそう言葉を発すると、ルクスもいつも通りとても明るい表情で言った。


「こちらこそ、お花についてたくさんお聞きできてとても楽しかったです!ありがとうございました!」

「あの位のことでよろしければ、またいつでもお聞きください……それと────第三王女様、くれぐれもルクス様に変な気など起こさぬよう、お願い致します」


 ルクスからシアナの方を向いて、フローレンスはそう釘を刺してきた。

 ────起こせるのならフローレンスに何を言われようと起こすけれど、まだルクスくんにそんなことはできないわね。

 心の中でそう呟きながらも、シアナはすぐに返事をする。


「えぇ、わかっているわ」

「そうですか……では、今度こそ失礼致します」


 そう言ったフローレンスは、二人に背を向けると、そのままお花の売っている店内に入って行った。

 ────相変わらず面倒な女ね……あの女とも今後色々とあるだろうから、今のうちに色々と手を打っておかないといけない……けれど。


「……」


 シアナは、横目にルクスのことを見る。

 ────せっかくルクスくんが隣に居てくれるのだから、今はそんなことどうでも良いわ!

 フローレンスと会ったことで湧いて出たストレスを一気に吹き飛ばすと、シアナがルクスに向けて言った。


「お花は十分楽しんだから、これからこの街でも適当に歩かないかしら」

「わかりました!」


 その提案をルクスが笑顔で快諾すると、二人は横並びになって街を歩き始める。

 すると、ルクスが小さく言った。


「こんなことを言うと失礼かもしれないんですけど……僕が街に来る時のほとんどはシアナっていう僕の従者も一緒なので、こうしてフェリシアーナ様と一緒に歩いていると、何だかシアナのことを思い出します」

「そう……けれど、失礼だなんて思わないから、安心して良いわ」

「あ、ありがとうございます」


 ────髪型や服装、言葉遣い、立ち振る舞い、口調、それらのものが第三王女フェリシアーナとしての私と、ロッドエル伯爵家のメイド、シアナとしての私では決定的に違うはずだけれど……意識の表面的な部分でないところで、ルクスくんは何かに気付いているのかしら。

 シアナがそう思っていると、ルクスが口を開いて言う。


「シアナは、僕なんかよりもずっとすごい女の子なんです……勉強もできて、家事もできて、優しくて、時々言うことの規模が大きくて驚かされたりするんですけど……僕はそんなシアナの主人として、もっと立派になりたいと思ってるんです」

「そう……やっぱり、ルクスくんの考えは素敵ね」

「っ!そ……そう仰っていただけて、嬉しいです」


 素敵と言われ、ルクスは照れたように言った。

 そんなルクスのことを見て、シアナは一つ気になったことが浮かんだため、そのことをルクスに問う。


「ルクスくん……もしも、そのルクスくんの従者が、ルクスくんに何か大きな嘘を吐いていたとしたら、ルクスくんは……軽蔑するかしら?」

「しません」

「っ……!」


 即答で断言したルクスの返答にシアナが目を見開くと、ルクスは続けて言った。


「シアナがもし僕に何か嘘を吐いていたとしても、それは最終的には僕のことを思ってくれているからこそのものだと思うんです……だから、仮にシアナがどんな嘘を吐いていたとしても、僕はずっとシアナの傍に居続けます」

「ルクスくん……」


 真剣な顔つきのルクスから出た言葉に、シアナは思わず感情を動かされ、その顔から目が離せなくなる。

 が、ルクスはすぐに真剣な顔つきから、慌てた表情になって言った。


「あ!で、でも、もちろんですけど、もしシアナに素敵な男性が現れたら、その時はちゃんと祝ってあげて、適切な距離を────」


 ずっとシアナの傍に居るという発言をしたことを気にしているのか、ルクスはその後も慌ててその言葉に他意はなく、あくまでも主人としてであることを説明した。

 ────私が、ルクスくん以外の男性と結ばれることなんて絶対に有り得ないわ……私が愛しているのは、今までもこれからも、ルクスくんだけなのだから。

 その後、二人は夕焼けの照らす街の中を楽しく話しながら見て回ると、そろそろ暗くなってくる時間になってきたため、また今度日程を合わせて会うことを約束してから、今日は別れることとなった。

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