第195話 激化
◇フローレンスside◇
「……第三王女様」
ルクスのことしか視界に納めていなかったフローレンスは、突如目の前にフェリシアーナ……それも、ロッドエル伯爵家のメイド、シアナとしてではなく、正真正銘第三王女フェリシアーナとしての装いでルクスと居ることに、フローレンスは驚いた。
そして、続けて口を開いて言う。
「ルクス様と第三王女様が休日にご一緒なされているとは、少々驚きました……今日は何かされていたのですか?」
「えぇ、今日はルクスくんと二人で、景色の良いレストランで食事をして来たわ」
フェリシアーナがルクスと二人で食事をしたということに対して何も思わない訳ではなかったが、今はとにかくどうしてルクスとフェリシアーナが二人で街に居るのかを探りたかったフローレンスは、それには特に反応せずに言う。
「そうだったのですね……それはとても良い時間の過ごし方だと思われますが、第三王女様がこのような街中を男性と一緒に居ては、目立ってしまうのでは無いですか?」
「仮に目立ってしまったとしても問題無いわ……私はもう、ルクスくんに婚約したいと伝えているもの」
────第三王女様が、ルクス様に婚約の話を……?
「だから、今はもう、他の人たちが私とルクスくんについてどのような噂をしたとしても、私には関係の無いことなのよ」
今まではルクスとの関係性上、フェリシアーナとしてルクスに婚約の話をするまでには至れていなかったため、もし街でルクスと一緒に居て噂が立てば、ルクスとしては純粋に困り、フェリシアーナとしてもまだ時期ではないということで困ることになってしまっていた。
だが、もうフェリシアーナがルクスに婚約の話をしているのだというなら、それも話は変わってくる……が。
「ルクス様、今のお話は本当なのですか?」
フェリシアーナの言葉だけを信用するわけにはいかないフローレンスがルクスにそう聞くと、ルクスは頷いて言った。
「はい、本当です……フェリシアーナ様に婚約のお話をいただいた時に、フローレンスさんにもご報告した方が良いのかなと思ったんですけど、その前にお返事をした方が良いのかなとか色々考えてて、お伝えできてませんでした……すみません」
フローレンスは、あくまでも今の話が本当なのかを確かめたかっただけで、それを伝えて来ていなかったルクスを責め立てたい訳では当然ないため、間を空けずに微笑んで言う。
「いえ、そういうことでしたら構いませんので、どうかお気になさらないでください……では、改めて私も第三王女様に伝えさせていただきましょう」
そう言うと、フローレンスはフェリシアーナと向かい合って、自らの胸元に手を当ててハッキリと言った。
「フローレンス公爵家の私、フローリア・フローレンスは、ロッドエル伯爵家のルクス・ロッドエル様に婚約したいとお伝えさせていただいておりますので……今後は改めて、よろしくお願いいたします」
シアナとしてのフェリシアーナとはそういった話を何度かしているため今更かもしれないが、第三王女としてのフェリシアーナにはまだハッキリと伝えられていなかったためフローレンスが改めてそう伝えると、フェリシアーナは力強く言った。
「私、第三王女フェリシアーナも、ロッドエル伯爵家のルクス・ロッドエルくんに婚約したいと伝えさせてもらっているわ……こちらこそ、よろしくね」
二人はそう言って、ルクスと婚約したいという意思を宣言し合うと、互いの目を見合う。
────第三王女様にルクス様のことはお渡ししません……ルクス様と結ばれるのは、私です。
同様の視線をフェリシアーナもフローレンスに送ってくる……が。
「あ、あの、お二人とも、えっと……」
その雰囲気に、ルクスがどうすれば良いのかと困惑していた様子だったため、フローレンスとフェリシアーナはルクスのことを困らせないよう、ルクスに何でもないというようなことを伝えると、その後は三人でしばらくの間お花を見て過ごした。
────フローレンスとフェリシアーナが互いにルクスに婚約したいと宣言し合ったことで、二人のルクスを巡る対立は、さらに激化していこうとしていた。
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