第194話 一番近く

◇ルクスside◇

「この料理、ルクスくんの口に合っているかしら?」

「はい!とっても美味しいです!」

「そう、それは良かったわ」


 僕がそう伝えると、フェリシアーナ様は小さく口角を上げてそう言ってくれた。

 とても高級なお肉が使われている上に、絶妙な焼き加減で、一口噛む度においしさが口の中を埋め尽くすような感覚になる。

 加えて、もし口直しがしたいと思った時は、温かくてさっぱりとしたスープもあって、お肉とスープを交互に楽しむことができる。

 それに、この景色と、フェリシアーナ様も一緒にこの美味しいものを食べてくれていると思うと、僕は余計にこの料理を美味しく感じることができた。

 そして、僕たちはそのままその料理を美味しく食べ進めると────やがて、料理の載っていた僕たちのお皿は平らげられ、カップの中に入っていたスープも無くなった。


「とても美味しかったです!」

「えぇ……ルクスくんが美味しそうに食べているところを見ていたら、私も普段以上に美味しく食べることができたわ」

「っ!僕も!フェリシアーナ様と一緒に食べていると思うと、さらに美味しく感じることができました!」

「ルクスくんがそう言ってくれるのなら、私にとってはこれ以上ないほど嬉しいわ」


 それから、少しの間料理についての感想を話し合うと、次に残っている紅茶を楽しみながらフェリシアーナ様とお話をすることになった。

 料理に繋げて好きな食べ物の話や、趣味の話などをした。

 すると、ふとフェリシアーナ様が楽しそうな表情で言った。


「私、こうしてルクスくんと他愛も無い話をしている時間が大好きだわ」

「僕も、フェリシアーナ様とこういった話をするの、とても楽しいです!」

「それと……そうね、そういえばこのことはちゃんと伝えられていなかったから、改めてちゃんと伝えさせてもらうわ」


 改めて……?

 僕が一体何のことだろうと思っていると、一瞬だけ風が吹き抜けて、僕たちの髪が揺れた瞬間、フェリシアーナ様は僕の目を真っ直ぐに見て言った。


「────愛しているわ、ルクスくん」

「っ……!?」


 突然そう言われた僕は、思わず顔に熱を帯びさせる。

 すると、フェリシアーナ様が続けて言った。


「婚約の話をしている時点でこれはわかっていたことだと思うけれど、言葉にして愛していると伝えれていなかったから、ずっと伝えておきたかったのよ」

「そ、そう、だったんですね……」


 僕が突然の衝撃に頭を混乱させていると、フェリシアーナ様がそんな僕のことを見て言った。


「ルクスくん、私がルクスくんのことを愛しているなんてことは当たり前なのだから、このくらいのことで顔を赤くしていたら今後が大変なことになってしまうわよ?」

「す、すみません!」


 僕がそう謝ると、フェリシアーナ様は優しい表情になって、僕の顔に自らの右手を添えると声色も優しい声色で言った。


「ルクスくん……この際だからのことも伝えておくけれど、私はルクスくんのことを、誰よりも一番近くで愛しているわ……ルクスくんが勉強をしている時も、ルクスくんがお庭で剣の鍛錬を積んでいる時も、私は誰よりも近くでルクスくんのことを愛してる……そのことを、忘れないでいてくれるかしら」

「っ!は……はい!」


 僕がそう返事をすると、フェリシアーナ様は優しい表情のまま僕の顔から手を離して言った。


「お互い紅茶も飲み終えたようだし、そろそろここを出て、ルクスくんが綺麗だと言っていた、お店の前に並べられているというお花を見に行かないかしら」

「わかりました!行きましょう!」


 その後、僕たちは二人でお店を後にすると、街にある別のお店の前にある綺麗なお花を見に行くべく二人で街を歩いた。

 そして────


「見てください!このお花です!」

「確かに、明るくて綺麗なお花ね」

「そうなんです!」


 目的地に到着すると、僕たちは早速そこにあるお花を見始めていた。

 そして、少しだけ時間が経つと────


「……ルクス様?」

「……え?」


 僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきたため、その方向を向くと……そこには、フローレンスさんが居た。


「フ、フローレンスさん!?ど、どうしてここに!?」


 僕がそう驚いていると、フローレンスさんは嬉しそうに微笑んで言った。


「ふふ、ルクス様とこのようなところで出会えるとは、今日はとても良い日のようですね……私はこのお店でお花を買いに来たのです、ルクス様はどうしてこちらへ?」

「あぁ、僕は────」

「ルクスくんは、私とこの綺麗なお花を見に来ていたのよ」


 僕が返事をしかけた時、フェリシアーナ様は僕とフローレンスさんの間に割って入って、フローレンスさんに向けてそう言い放った。

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