第193話 幸せな時間
「ここよ」
そう言ってフェリシアーナ様が足を止めたのは、街の少し高い場所にある、白のレンガ造りになっているお店の前だった。
その外観の雰囲気や両開き扉の作り込みから、ここがとても高そうなお店であることはよくわかる。
「今日はここのテラス席を予約したのだけれど、そのテラス席からこの街全体が見渡せるのよ……きっと、ルクスくんも気に入ってくれると思うわ」
「っ!た、楽しみです!」
僕は、その高級感の溢れる雰囲気に緊張を抱きながらもそう返事をすると、優しい表情で僕のことを一度見てくれたフェリシアーナ様と一緒に店内に入る。
すると、ウェイター服を着た男性が僕たちに頭を下げてきて言った。
「フェリシアーナ様と、ロッドエル様ですね?」
「えぇ」
「ご予約されていた席までご案内致します」
そう言うと、男性は僕たちのことを席まで案内し始めてくれたため、僕とフェリシアーナ様はついて行く。
そして、他には誰も居ないテラス席まで案内してもらうと、僕とフェリシアーナ様は席について料理を注文した。
「────かしこまりました……では、お料理の方を準備させていただきますので、少々お待ちください」
最後まで丁寧にそう言うと、ゆっくりと頭を下げてから、その男性は僕たちの元を去って行った。
フェリシアーナ様……こうして一緒に居ると、その受け答えや落ち着きから、本当に同い年の人とは思えない。
僕は、そんなことを思いながら、ふと風が通ったと思って横を見てみた。
すると────そこには、昼ということもあってとても活発な街の姿があった。
「凄い……!」
僕は、その街の景色に思わず圧倒される。
フェリシアーナ様と待ち合わせをした噴水に、時々買い物に行くお店、人を乗せて走っている馬車……僕は、街に住む人々が元気に生活しているのを見て、とても温かい気持ちになった。
◇シアナside◇
ルクス同様、少しだけ街の方に視線を送っていたシアナだったが、すぐにルクスの方に視線を戻す。
「……」
ルクスや第三者から見れば、今のシアナは、第三王女フェリシアーナとして、いつも通りとても落ち着いているように見えるだろう────だが……実際は、そうでは無かった。
────ルクスくんが街の景色をキラキラとした目で見ていてとても可愛いわ……!というか、他のテラス席は私が手を回して誰も来ないようにしておいたから、こうしてルクスくんと二人でテラス席に居られることは事前にわかっていたことだけれど、それにしても二人だけしか居ないテラス席でルクスくんと景色の良い街を背景に食事ができるなんて素敵すぎないかしら!?
ルクスの表情や、今ルクスと二人でテラス席に居るという状況に、シアナが胸を躍らせていると、ルクスが街の方向を指差して言った。
「フェリシアーナ様!見てください!僕、前にあそこのお店でお野菜を買いに行ったことがあるんですけど、普段あまり買い物に行かなくて色々と悩んでいると、それに気付いてくれて優しく教えてくれたんです!」
────あぁ、ルクスくん……
「そうなのね」
「はい!あと、あそこの通りは、時々通るんですけど、お店の前に並べられてる花がとても綺麗なので、フェリシアーナ様にも是非見て欲しいです!」
────可愛いわ……
「そう、なら今度……いえ、食事が終わったら、後でルクスくんと一緒に見に行きたいのだけれど、どうかしら?」
「っ!是非お願いします!」
ルクスは、シアナに向けてそう笑顔で言った。
────あぁ、ルクスくん、可愛すぎるわ……!
シアナは、そんなルクスのことを見て頬を赤く染めながら心の中でそう呟くと、続けて少し心を落ち着かせて、ルクスのことを見ながら心の中で改めて誓う。
────愛しているわ、ルクスくん……私が絶対に、ルクスくんのことを幸せにしてあげるわね。
その思いのまま、今すぐにでもルクスのことを抱きしめ愛を囁きたい気持ちでいっぱいだったが、この場でそんなことをするわけにも行かないため、シアナはどうにかそれを堪える。
それから、少しの間ルクスと街についての話をしていると料理が届いたため、二人は早速その料理を食べ始めた。
────フェリシアーナとしてルクスと過ごせるこの幸せな時間を、シアナはいつまでも過ごしていたいと思った。
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