第191話 心の準備
◇バイオレットside◇
剣術大会、第三回王族交流会という大きな催し事二つを終えたこの頃……今日は、シアナにとってとても大事な日だった。
何故なら────
「今日は、ルクスくんに婚約の話をしてから、初めて第三王女フェリシアーナとしてルクスくんと会うことのできる日よ!!」
ということだからだ。
以前、ルクスが最近フェリシアーナと関われていないことを気にしていた時に、シアナは────
『ルクスくんへ 最近忙しくて会えていないけれど、あと少ししたらようやく落ち着いて来そうだわ 婚約の話はゆっくり考えてくれたら良いけれど、そのことを抜きにしてもルクスくんと過ごしたいから、良かったらその時に二人で会わないかしら』
というメッセージ手紙をフェリシアーナとして記して渡した。
あれから二通ほどやり取りをした結果、二人で過ごす日が決まり……それが今日、ということだ。
「しかも!今日は街で過ごすということになっているのよ!シアナとしてだったら色々と制限もあったけれど、第三王女フェリシアーナとしてだったら、ルクスくんにどんなことでもしてあげられるわ!」
「その通りだと思われますが……第三王女フェリシアーナ様として、異性であるロッドエル様と街中を歩くとなるとどうしても目立ってしまいそうですが、その点はよろしいのですか?」
「問題無いわ、私とルクスくんの噂が広がるならそれは良いことで、仮に何かトラブルがあったとしても────私とあなたが居れば問題無いでしょう?」
「……そうですね、余計なことを聞いてしまい失礼しました」
「良いわ」
バイオレットの謝罪に対して、シアナは落ち着いた声色でそう返した。
すると、少し間を空けてから、シアナは頬を赤く染めて口を開いて言った。
「ところで、バイオレット……実は今日までの間、頭の片隅でずっと考えていたことがあるのだけれど、聞いてもらっても良いかしら?」
「はい」
シアナに聞いて欲しいと言われればそれを聞くのがバイオレットなため、バイオレットはすぐに頷いてそう言うと、シアナが話し始めた。
「さっきも言った通り、私は婚約の話をしてからフェリシアーナとしてルクスくんと会うのは今日が初めてで、加えて言うとフェリシアーナとしてルクスくんと街に出かけるのも今日が初めてなのよ」
「存じております」
どこか様子のおかしいシアナに対してもいつも通りに返事をすると、シアナはさらに口を開いて言う。
「それで……ルクスくんのことだから可能性は低いということはわかっているのだけれど、もう婚約の話をしてある以上、もし今日の雰囲気が良ければ、突然そういうことになる可能性もあるのかしら!?」
「……そういうこと?」
一瞬、その言葉の意味がわからなかったバイオレットだったが────すぐにその言葉の意味を理解すると、続けて言った。
「……いえ、お嬢様も仰られている通り、ルクス様とそういったことになる可能性は、限りなく低いと思われます」
「そんなことはわかっているのよ!けれど、万が一にそういうことになる可能性もあるわよね!?」
「……比喩表現で無く、本当に万が一でしたら、あるかと思われます」
バイオレットは、シアナの求めている言葉でありながらも、現実的な見解もしっかり伝えると────
「そ、そうよね!?もしそんなことになったらどうしようかしら!ずっと心の準備をしようとしていたのだけれど、まだ心の準備ができていないわ!」
「おそらくそういった心の準備は不要かと思われますので、ご心配なされずとも良いのでは無いでしょうか」
「そうは言っても!やっぱり準備はしておきたいものなのよ!あなただって、もしルクスくんとそうなる可能性があったらそうでしょう!?」
「……」
シアナがそう言うと、バイオレットは少し熱を帯びた顔を、フードを深く被ってシアナから見えなくした。
「っ!顔を見せなさい!バイオレット!」
「……拒否します」
「見せなさい!!」
「拒否します」
その後、フードで顔を隠さないよう言い続けるシアナに、バイオレットは拒否を伝え続けて、二人は少しの間時間を過ごした……そして。
────時間がやって来ると、二人はルクスとの待ち合わせ場所に向かった。
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