第190話 推測

◇フローレンスside◇

 ルクスがレザミリアーナに連れられてから、次々に話しかけてくる王族関係者と交流をしていたフローレンスは、後ろから帽子を深く被った人物に話しかけられた。


「フローレンス様」

「はい」


 一瞬、声だけではその人物が誰なのかを判別することができなかったが、向かい合って、その人物が一瞬目元を覗かせたことで誰かがわかった。


「バイオレット様、どうしてこの場所へ?」

「私も一応王族関係者ですので」


 フローレンスが聞きたかったのはどういう意図でこの場所へ居るのか、ということだったが、バイオレットもそれをわかっていながら返答を濁したと考えたフローレンスは、その先にある答えを導き出して言った。


「なるほど……また、第三王女様に、私とルクス様のことを引き離すよう言われているのですか?」

「私の口からそれにお答えすることはできません」


 そう答えたバイオレットだったが、もはやそれは答えのようなものだった。

 それを聞いたフローレンスは、少し間を空けてから言う。


「でしたら、見ての通りですが、今ルクス様はこの場には居ません」

「はい、存じております」

「……では、どうして私の元へ姿をお見せに?」

「以前友好関係を築くとお約束しましたので、この王族交流会の場を持ってその関係性を深められればと思いまして」


 ────おそらく、第三王女様に言われた通りに私のことをルクス様から引き離すという意図もあるのでしょうが、バイオレット様が嘘を言っているようには見えませんね……であれば。


「わかりました、元よりこの場でルクス様に何かをするつもりはありませんでしたので、この場で共に時間を過ごし、友好関係を深めましょう」

「ありがとうございます」


 それから、二人はしばらくの間紅茶、などを楽しみながら時間を過ごした。



◇エリザリーナside◇

 ────夕方頃。


「っ!レザミリアーナお姉様!」


 調停の職務を終えたエリザリーナが王城内の廊下を歩いていると、ワインレッドの髪に凛々しい姿勢で歩いている女性、レザミリアーナの姿を発見したため、そう名前を叫んで近づくと、レザミリアーナが言った。


「エリザリーナ、今日の職務はもう終わったのか?」

「もちろん!それより、レザミリアーナお姉様の方も、もう王族交流会終わったんだよね?どうだった?」

「あぁ、とても良い時間だった……今までああいった催し事には参加して来なかったが、たまには悪く無いものだな」


 その言葉を聞いたエリザリーナは、まだ以前の違和感が頭の中に残っていたため、この場で今一度その違和感の正体を探ることにした。


「今回貴族学校の王族交流会に参加したのは、剣術大会で数名見込みのある剣士が居たから……だったっけ?」

「そうだ、彼らとも話してきたが、皆将来は立派な剣士になっているだろう」

「へぇ……」


 ────そういえば、この間の王族会議の時の、レザミリアーナお姉様が王族交流会に参加するっていう発言の衝撃が強くて忘れちゃってたけど、最近レザミリアーナお姉様に驚かされたことってもう一つあったっけ。

 その時は、それをただ言葉として素直に聞き入れていたが、なんとなく思い出したそのことを口にすることにした。


「そういえば、前にお姉様が私に恋バナして来たことあったでしょ?確か、自分の意中の相手にもうすでに婚約の話を持ちかけてる人が居たらどうするかってやつ……あれ、私はもちろん冗談で『その相手を排除してでも、私がその好きな人と結ばれる』って答えたけど、レザミリアーナお姉様の答えは聞いてなかったよね……今この場で聞かせてくれない?」


 そう聞くと、レザミリアーナはエリザリーナの目を見て言った。


「排除するかはわからないが────その者に、譲りたくないと思うのは確かだろう」

「……だよね〜!私もそんな感じ〜!ごめんね?変なこと聞いて、今日はもう疲れてると思うから、これ以上引き止めるのも悪いし、ゆっくり休んでね〜!」

「今から剣の鍛錬があるが、それが終わったらそうさせてもらおう」

「仕事終わりでも相変わらずだね〜」


 そんな会話の後、レザミリアーナはエリザリーナの横を通り、廊下の奥へと歩き去って行った。

 エリザリーナは、そのレザミリアーナの背中を見届ける。


「……まさか、ね」


 エリザリーナの中にある一つの推測が浮かんだが、あのレザミリアーナに限ってそんなことは有り得ない。


「まぁ、当たってたとしてもその時はその時だよね〜」


 そう軽く考えることにしたエリザリーナは、もう今日の職務を終えているため、自室に戻ってルクスのことを考えながらゆったりと過ごすことにした。

 ────この時、エリザリーナは、もしかしたらレザミリアーナに誰か意中の相手ができたのではと推測を立てたが、それが自らの意中の相手でもあるルクスだとは、全く考えていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る