第185話 レザミリアーナの心情

「何をそんなに驚いているんだ?」


 シアナが驚いた表情をしていることに、レザミリアーナは疑問を抱いている様子だったが、シアナは心の中で言う。

 ────前に、馬車の中でそういった話をしていた時は、婚約者に関する話だったからそこまで不思議は無かったけれど、心的距離の縮め方に関する話なんて国の将来に関係の無い純粋な恋愛話よね!?

 心の中でそう言いながらも、長く沈黙しては不自然なためシアナはひとまず返事をすることにした。


「い、いえ、なんでもありません」

「そうか、なら良いが……それで、どういった方法で心的距離を縮めたんだ?」

「会話をし、紅茶を楽しみ、共に時間を過ごすなど、ごく一般的な方法です」

「王族という立場で、伯爵家の男性とそういったことをするとなると、相手はかなり気を遣ってしまって心的距離を縮めるどころでは無くならないのか?」

「確かに、そういった側面があることは否定しませんが、長い時間を過ごせば少しずつ縮まってくるものです」

「なるほど……そうか、参考になった」

「……」


 そこまで話して、普段なら言わないようなことを言うレザミリアーナに疑問を抱いたシアナだったが、先ほどレザミリアーナが過去馬車の中でで話したことを持ち出していたため、シアナもその時のある会話を思い出す────


「私は、少なくともこれから先しばらくは仕事で婚約者を探す余裕などは無い……国内の公爵貴族や他国の王族から婚約の申し出をもらってはいるが、どうも私はそういったことに疎いようでな、生涯を共にすると考えた場合にどの男性を選ぶべきか、など私には全くわからない」

「愛し支えたいと思える男性が居れば、その方がレザミリアーナ姉様の生涯を共にするべき男性になると思いますよ」

「愛し支えたい、か……私がそういったことを思うのは、お前たち妹やお父様、お母様、それにもちろん常日頃フェリシア―ナのことを支えてくれているバイオレットや、その他の我ら王族のことを支えてくれている人間、そして我が国の民全てだ……だが、その愛し支えるというのは、おそらくフェリシア―ナの言った意味とは大きく異なるのだろう」


 その思い出した会話の内容から、レザミリアーナがどうして突然恋愛話をし出したのかを考え、シアナなりにその答えを考え付くと────それを、レザミリアーナに聞かずには居られなかった。


「レザミリアーナ姉様が突然そのようなことを私にお聞きになったのは、もしや……レザミリアーナ姉様にも、愛し支えたいと思える男性が現れたからなのですか?」


 まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、そう聞かれたレザミリアーナは目を見開いた。

 そして、少し沈黙した後で口を開いて言う。


「そうだな……フェリシアーナになら、このことを伝えても良いだろう」


 そう言うと、レザミリアーナは続けて頬を赤く染めて言った。


「実は……私にも、愛し支えたいと思える男性が出来たんだ……彼のためなら、全てを投げ打つ……とは、仮にもこの国の第一王女であり、同時にお前たちの姉である私の口からは言えないが……ともかく、私も思わず心を惹かれてしまうような男性が現れたんだ」

「っ!?」


 シアナは、レザミリアーナの言葉……と同じぐらいに、その表情に驚いた。

 ────レ、レザミリアーナ姉様のこんな表情、初めて見たわ!?私もそうだからわかるけれど、これは……好きな男の子のことを考えている時の……でも、あのレザミリアーナ姉様が!?あのレザミリアーナ姉様のことを射止めるなんて……

 すぐにその相手のことが気になったシアナは、そのことを聞く。


「突然で少し驚いてしまいましたが、レザミリアーナ姉様にもそういった相手が見つかったのであれば、私は何よりです……その男性は、一体どのような方なんですか?」

「そうだな……彼は、優しく、礼儀も正しく、直向きな努力を重ねられる人物だ……私はこういったことに疎く、具体的にどう関わっていけば良いのかまだわかっていないが、それでも私が彼を愛し支えたいと思っている心に、偽りは無いと確信できる」


 ────レザミリアーナ姉様にここまで言わせるなんて……本当に、一体どんな人物だというの?……この世界の男なんて、ルクスくん以外はどうでも良いと思っていたけれど……世界は広いのね。

 だが、仮にどんな男性が居たとしても、シアナは自らがルクス以外のことを好きになることはあり得ないと確信していたため、そのことは特に気にしていなかった。

 レザミリアーナは、頬を赤く染めるのをやめて少し落ち着いた表情になると、シアナに言った。


「フェリシアーナ、わかっているとは思うが、余計なトラブルを避けるためにもこの話は他言無用で頼む」

「わかりました」

「よし……今度こそ、今日はもうゆっくり休むといい、長々と済まなかったな」

「いえ、こちらこそすみませんでした……失礼致します」


 そう言って頭を下げると、シアナはレザミリアーナの執務室を後にした。

 ……しばらくの間、あのレザミリアーナが誰か一人を想っているということの衝撃が、頭から離れなかった。



◇レザミリアーナside◇

「ふふ、愛し支えたいと思える男性、か……口にするだけで恥ずかしい言葉だが────君を指して使うなら、悪くない」


 一人残った執務室で少しだけ口角を上げながらそう呟くと、明日に思いを馳せながら目を閉じ、ルクスの姿を脳裏に過らせて言う。


「明日は、君に王女として初めて会う日……そう思うだけで、剣を振っても居ないのに心臓が鼓動を速めてしまう────私は、君に会いたくて仕方がない」


 自らの思いを言葉に乗せて、レザミリアーナは静かにそう言い放った。

 それから、時間を掛けて日は昇り────いよいよ、第三回王族交流会が始まろうとしていた。



 今日でこの作品の連載を始めてから六ヶ月、半年が経過しました!

 この半年の間にこの物語を第185話までお読みくださり、本当にありがとうございます!

 あなたが押してくださっているいいねや、コメントの一つ一つに対して、本当にいつも感謝しています!

 ここまでお読みいただいているあなたのこの物語へ抱いている気持ちなどを、コメントなどでお教えしていただけると嬉しいです!

 作者は今後も楽しくこの物語を描かせていただこうと思いますので、是非あなたも最後までこの物語をお楽しみください!

 今後も応援よろしくお願いします!

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