第184話 恋愛話
◇シアナside◇
「────この間、あの女が事前に何の前ぶりも見せずにルクスくんのことを家に誘ってお風呂に入ったというのは想定外の出来事だったわ……あの女が突発的な行動をする可能性がある以上、明日の王族交流会でも何をしてくるかわからないから、当然油断することはできないということは、わかっているわね?」
王城の自室で、第三王女フェリシアーナとしてのドレスを着ているシアナが、目の前に居る黒のメイド服を着たバイオレットに向けてそう話す。
「はい、お嬢様」
バイオレットは、当然あの日もルクスの周囲を見張っていたため、ルクスとフローレンスの二人が一緒にお風呂に入ることが決定した瞬間の会話も見聞きしていた。
が、フローレンス公爵家内で下手に荒事を起こすわけにもいかなかったため、あの時は静観するほか無かった……が。
「だったら、あなたの正体はもうフローレンスにバレているのだし、明日は多少強引でも良いからとりあえずルクスくんとフローレンスのことを引き離しなさい」
「承知しました……では、私は先にロッドエル伯爵家の方へ戻らせて頂こうと思います」
「えぇ、お願いね」
バイオレットの言葉に対して頷いてそう伝えると、バイオレットはシアナに頭を下げてからこの部屋を後にした。
それを見届けたシアナは、目の前の書類を見て呟く。
「あとは、この書類の束をレザミリアーナ姉様のところへ持って行くだけね」
その書類を手に持つと、シアナも自室を後にしてレザミリアーナの執務室へと向かった。
そして、執務室の前に到着すると、ドアを二回ノックして言う。
「レザミリアーナ姉様、例の書類が完成しました」
「そうか、入ってくれ」
執務室内からそう聞こえて来たため、シアナは「失礼します」と言うとそのドアを開けて椅子に座っているレザミリアーナに書類を渡した。
すると、レザミリアーナは静かにそれに目を通してから言った。
「よし、ご苦労だったな……今日はもうゆっくりしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
用事を終えたため、執務室のドアの方を向いてレザミリアーナに背を向け────ようとしたシアナだったが、途中でその動作を止めると、再度レザミリアーナと向かい合った。
「ん……?どうかしたのか?」
もう用が済み、今も部屋から出ようとしていたシアナが、再度自らと向かい合ったことに疑問を抱いたレザミリアーナがそう聞いてくると、シアナが言った。
「……レザミリアーナ姉様に、一つお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「あぁ、なんだ?」
「レザミリアーナ姉様は、明日の第三回王族交流会にご参加なされる理由として、貴族学校内に数名見込みのある剣士が居たから一度話しておきたい、と仰っていましたが……本当に、それだけなのですか?」
「エリザリーナに続き、フェリシアーナもそんなことが気になるのか」
王族会議の時は違和感など感じ無かったが、あれから何日か日が空いて振り返ってみると、そのことの異常さに気が付いたため、シアナはそのことを今レザミリアーナにぶつけた。
「今まで、レザミリアーナ姉様はその忙しさ故にそういった催し事には必要最低限しか参加しなかったはずです……エリザリーナ姉様も仰っていましたが、そんなレザミリアーナ姉様がそれだけの理由で第三回王族交流会への参加をご決断されたというのは、やはり不自然に思いました」
フェリシアーナがそう言うと、レザミリアーナは少し間を空けてから言った。
「前回の剣術大会で、貴族学校の中に数名見込みのある剣士が居たから一度話しておきたいと言うのは嘘ではない……が、確かにお前たちの指摘通り、私が第三回王族交流会への参加を決めた理由はそれだけでは無い」
「その理由とは、一体どのようなものなのですか?」
「その理由について、今答えるつもりは無い」
「……そうですか」
レザミリアーナ相手に、理由がそれだけでは無いということを引き出せただけでも上出来……そう考えることにしたシアナは、ここで無理に聞くことはせず、引いておくことにした。
すると、レザミリアーナが口を開いて言った。
「次は、私が前から気になっていたことをフェリシアーナに聞いても良いか?」
「はい、何ですか?」
レザミリアーナが気になっていたこと、というのが純粋に気になったシアナがそう聞き返すと、レザミリアーナが言った。
「以前、カティスウェア帝国へ向かう馬車の中で、フェリシアーナが婚約したいと思っている伯爵家の男性は、百を超える回数をお父様に断られても生涯を共にしたいと思える男性なのかと聞き、フェリシアーナはいずれその男性と必ず婚約すると言っていたが、そのことを覚えているか?」
「無論です、今でもその意見は変わりません」
シアナがハッキリそう言うと、レザミリアーナが言った。
「そうか……フェリシアーナは、その男性との心的距離をどういった方法で縮めたんだ?」
「っ……!?」
一見普通に聞こえるレザミリアーナの言葉だったが────シアナはは、その言葉に対してとても驚愕していた。
────あ、あのレザミリアーナ姉様が恋愛話!?
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