第183話 お言葉

「ルクス様……ふふっ、毎日のようにお会いしているはずですが、お風呂という場で、それも互いに服を着ずにお会いすると、何だかとても新鮮な感覚になりますね」

「そ……そうですね!」


 フローレンスさんは体全身にタオルを巻いてくれているから、目をどこに向ければ良いのかと悩む必要は無さそう……だけど、タオルをしていてもわかるほどにしっかりと整った体つきをしていた。

 そんなことを思っていると、フローレンスさんが僕に近付いてくると、僕の目の前に立って言った。


「そのお体を拝見しただけで、ルクス様が日々精進なされていることがわかりますね……私も将来の妻として、より精進して行かねばなりませんね」

「い、いえ!フローレンスさんは勉強も剣術もすごいですけど、僕なんてまだまだです!!」


 僕がそう言うと、フローレンスさんはどこか浮かない表情になって言った。


「勉学はともかく、剣術に関しては、私はまだまだです……私の剣は、剣術大会のエキシビションマッチでは、第一王女様に敗れてしまいましたから」


 そんなフローレンスさんの言葉を聞いた僕は、フローレンスさんに近付いて口を開いて言う。


「っ……!そんなことありま────」


 僕がその言葉を力強く否定しようとした時、フローレンスさんが言う。


「と、第一王女様にエキシビションマッチで敗れてしまった直後は思っていました……が、今はそのようなことは思いません」


 そう言ったフローレンスさんは、僕の方に近付いてると、僕と顔を合わせて優しく微笑みかけてくれながら言った。


「────ルクス様が、私の剣を好きだと仰ってくださいましたから……私は、あのルクス様のお言葉のおかげで、大きく支えられました」

「っ……!」


 僕の、あの言葉で……でも、あの言葉は心の底から出たもので、今で思っていること……だから────


「僕は、何度だって言えます!フローレンスさんの剣が大好きです!」

「っ!ルクス様……!」


 僕がそう伝えると、フローレンスさんは僕のことを抱きしめてきた。


「フ、フローレンスさん!?」


 バスタオルを体に巻いているとはいえ、服を着てない状態で体を抱きしめられたりしたら────


「共に日々を過ごし、剣の鍛錬を重ね、嘘偽りなど発しないルクス様からのお言葉だからこそ、私はとても嬉しく思います」

「よ、喜んでいただけたなら良かった、んですけど……お、お体が、正面からあたってます……!」


 僕がその感触などに恥ずかしさを覚えながらもそう伝えると、フローレンスさんは小さく笑っていった。


「ふふ、そのようなこと、私は気に致しません……私はルクス様のことを愛し、将来はルクス様の妻になりたいと願っているのですから」

「フ、フローレンスさんが気にしなくても僕が気にします!」

「そうですか……でしたら、将来のためにももう少しこのままで、ルクス様には慣れていただかなくてはなりませんね」

「え、えぇ!?」


 そう言うと、フローレンスさんは微笑んで、より僕と体が密着するように僕のことを抱きしめてきた。

 とても恥ずかしかったけど、フローレンスさんのことを無理やり引き離すなんていうこともできず、当然慣れることなんてないまましばらくの間抱きしめられ続けていると、やがてフローレンスさんが僕のことを抱きしめるのをやめて言った。


「申し訳ございません、ルクス様のお言葉が嬉しかったことと、ルクス様とお風呂に居ると思うと、つい気分が高まってしまいました」

「だ……大丈夫です!」

「ありがとうございます……では、共にお風呂を楽しみましょうか」

「は、はい!」


 その後、僕はもちろん少しは緊張したけど、フローレンスさんはずっと体にタオルを巻いてくれていたため、比較的緊張せずに二人で一緒にお風呂に入って、最近会ったことや今後のことなどを楽しく話し合った。

 そして、それから時間は流れて────第三回王族交流会前夜になった。

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