第169話 本気

◇エリザリーナside◇

 ご飯を食べ終えて、ロッドエル伯爵家の使用人が食器を片付けると、フェリシアーナがルクスに向けて言った。


「ご主人様、本日はご主人様が剣術大会後でお疲れであろうと考え、身体疲労に効果のある紅茶を用意させていただきましたので、よろしければそちらもいかがでしょうか?」

「うん、是非飲ませてもらうよ!ありがとう、シアナ」

「はい!では、少々お待ちください!」


 そう言うと、フェリシアーナはルクスに向けて頭を下げ、この食堂を後にする。

 後で戻ってくるにしても、ルクスと二人きりになることができたのはエリザリーナにとっては良いことのため、エリザリーナはルクスに聞いた。


「ねぇ、ルクスとシアナちゃんって、どのぐらい仲良いの?」


 これを聞くことによって、ルクスとシアナの関係値を測ることができる。

 そして、関係値を測ることができればあとはそのルクスとシアナの関係値をどうすれば自らが超えることができるのかを考えるだけなため、この問いの答えは今後のエリザリーナにとって重要な指標となる。


「どのぐらい……仲の良さを具体的に表すのは難しいんですけど、すごく仲が良いと思います」

「そうなんだ〜、今までシアナちゃんとどんなことして来たの?」


 ────フェリシアーナのことをちゃん付けする度に違和感しかないけど、出会ってばかりの程のシアナに呼び捨てなんてしたらルクスに変に思われちゃうかもしれないから、この辺も徹底しないとね。

 刹那の間にそんなことを考えていると、ルクスが言った。


「一緒に紅茶を飲んだり、出かけたりとか、本当に色々して来ました」

「そういうのも良いけど、もっとわかりやすく……例えば、シアナちゃんと一緒にお風呂に入ったとか」


 ────まぁ、いくら仲が良いって言っても、そんなことはしてないと思うけど。

 ……と思っていたのも束の間。


「っ……!?」


 エリザリーナの今の発言を聞いたルクスの顔が、とても赤くなっていた。

 ────え?

 そんなルクスの反応を見たエリザリーナは、素直に動揺する。

 ────例えとして、わかりやすくそんなこと有り得ないっていうのを出したつもりだったんだけど……この反応、どう考えたってお風呂っていう単語を聞いて恥ずかしがってるってだけじゃないよね。

 誰の目から見てもそのことは明らかだが、人間というものに対する洞察力に優れているエリザリーナにとってはより明らか。


「もしかして、もうシアナちゃんとお風呂に入ってるの?」


 明らかだが念のために確認を取ると、ルクスは顔を赤くして恥ずかしそうにしながら言った。


「そ、その……い、一度だけ……」

「っ!!」


 わかっていたことだが、改めてルクスの口からその事実を聞かされたエリザリーナは心が動く。

 ────へぇ……本気を出すって言っても、今日はルクスと抱きしめ合うぐらいで止めておくつもりだったけど……私の知らないところで、フェリシアーナはルクスとそんなことまでしてたんだ。

 そう心の中で呟くと、エリザリーナは顔を下に俯ける。

 ────私はずっと、ずっとずっとルクスと会いたくて話したくて堪らない日々を送ってたのに……私の方が絶対、ルクスのこと大好きなのに。

 顔を下に俯けたまま、フェリシアーナへの嫉妬とルクスへの愛情が激化させた結果、エリザリーナは虚ろな目になる。

 ────フェリシアーナがそこまでしてたなら、私だって自分の気持ちに素直になって良いよね。

 そして、虚ろな目をやめて顔を上げると、エリザリーナは国一つを調停して来た頭脳、心理誘導、話術、洞察力の全てを駆使して、ルクスに対し本気でアプローチをし始めることにした。



◇ルクスside◇

 シアナとお風呂に入った時、僕は最後意識を途絶えさせてしまったけど、その時に触れたシアナの体の感触は、強烈だったから今でも鮮明に覚えている。

 そんなことや、他にもシアナとお風呂に入った時の様々なことを思い出して僕が顔に熱を帯びさせていると────エリナさんが僕の顔を覗き込むようにして言った。


「ねぇルクス、良かったら今日、私とも一緒にお風呂入らない?」

「え?……えぇ!?ど、どうしてですか!?」

「さっき、あ〜んはダメだから別の方法で労って欲しいって言ってたでしょ?だから、私が直接ルクスの体に触れて癒してあげたいなって」

「そ、それは……でも、お風呂に入るのが今日というのはいきなり────」


 そう言いかけた時、エリナさんは僕の左手に自らの右手を重ねて言う。


「私、やっぱり前言った通りルクスと二人になれる場所で過ごしたいの……それとも、ルクスはシアナちゃんとは良いけど、私と二人でお風呂に入るのは嫌?」

「い、嫌とかじゃないです!ただ、人前でご飯を食べさせてもらうこととはまた違った意味で恥ずかしいというか……」

「恥ずかしいのは私だって同じだよ……でも、そういうのも二人で一緒に経験したらもっと仲良くなれると思わない?私、もっとルクスと仲良くなりたいな」


 僕と、仲良く……僕の剣術大会を労ってくれるためにわざわざ僕の屋敷まで来てくれて、さらにそのエリナさんがここまで言ってくれているのに、その気持ちを無視して表面だけを見て断るなんて、今度こそ絶対にしたらダメだ!


「わ、わかりました……その、よろしくお願いします!」

「そんなに緊張してたらせっかくお風呂に入っても疲れ取れないよ?でも、その緊張も私がゆっくりと解してあげるね……じゃあ、早速今から行こっか」

「い、今から、ですか!?」

「うん、シアナちゃんが戻って来たら二人になれないかもしれないからね」

「で、でも、紅茶────っ!?」


 僕がシアナが淹れてくれる紅茶についての話を持ち出そうとするも、エリナさんは僕の腕を組んできた。


「じゃあ、行こっか!お風呂の場所まで案内して!」

「は、は、はい!」


 腕を組まれた衝撃で何を言うのか吹き飛んでしまった僕は、そのままエリナさんのことをお風呂場まで案内すると、それぞれ脱衣所で服を脱いでからお風呂場に入ることになった。

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