第168話 距離感
◇ルクスside◇
────三人でロッドエル伯爵家の食堂に移動すると、屋敷の人たちが僕の剣術大会終了を労ってくれるために作ってくれた料理がもう出来ていたみたいだったため、僕の右にシアナ、左にはエリナさんが座るという形で、僕たちは早速料理を食べ始めることになった。
「ご主人様、こちらの────」
シアナが目の前の料理を前にして何かを言いかけた時。
僕の左の席に座っているエリナさんは、すでに切り分けられているお肉をフォークで挟むと、僕との身体的距離を近付けてきて、さらにはそのお肉を僕の口元に差し出して来て言った。
「ルクス、私よく高いもの食べるからわかるけどこれ本当に良いお肉だよ!私のあげるから、お口あ〜んして?」
「えっ!?」
あ〜ん……!?そ、それもシアナの目の前で!?
「だ、大丈夫です!良いお肉なら、僕だけじゃなくてみんなで食べたほうがもっと美味しくなると思うので、エリナさんも美味しく食べてください!」
「もちろん私も後で食べるけど、今日剣術大会頑張ったのはルクスだから、まずは一番最初にお疲れ様って言ってあげるためにも私が食べさせてあげたいなぁ」
「ぼ……僕を労ってくれるために、ということですか?」
「うん!だって私、ルクスが剣術大会で二位取ったところ見て本当に感動しちゃったし!この国の剣術大会って本当にレベル高いんだよ?そんなにレベルの高いこの国の剣術大会でルクスが二位を取るまでに一体どれだけ頑張って来たのかって思うと、直接労ってあげたくなるじゃん!で、今は食事の場だからそれがご飯を食べさせてあげるってことなの!」
……あ〜ん、という行為の表面だけを見たら恥ずかしいことだけど、エリナさんはそれだけじゃなくてちゃんとその奥に僕の剣術大会を労いたいという思いも乗せてくれている。
せっかくエリナさんがそんなに優しい思いを僕に向けてくれているのに、その思いを表面的な理由だけで僕が拒絶するわけにはいかない。
「……わかりました、エリナさ────」
「お待ちください、ご主人様!」
僕がそう言いかけた時、僕の右の席に座っているシアナも、エリナさんと同じように切り分けられたお肉をフォークで挟むと、僕との身体的距離を近付けて来てそのお肉を僕の口元に差し出して来て言った。
「そういうことであれば、私もご主人様のことを労いたく思います!」
「えっ!?」
それにより、今僕の目の前に二つのお肉が同時に差し出されている形になる。
すると、エリナさんが言った。
「シアナ……ちゃん、ルクスの口は一つしか無いから、一口目は先に提案した私に譲ってくれないかな?」
「エリナ様には申し訳ございませんが、私の方がご主人様のことを長く身近に応援していたので残念ですがお譲りすることはできません」
エリナさんの提案に対してシアナがそう返事をすると、少し間を空けてからエリナさんが言った。
「……ねぇ、ルクスはどっちに先にお肉食べさせて欲しい?」
「えっ……!?」
「私も、ご主人様に決めていただきたく思います」
「えぇ!?」
二人の差し出してくれているお肉のどちらを先に食べるか!?
そ、そんなの────選べない!
あのシアナが譲らないということは、それだけ僕のことを近くで応援してくれていたからということだと思う。
だけど、エリナさんの気持ちが弱いのかと言えばそうじゃない……エリナさんも、剣術大会の合間に僕に会いに来てくれたり、実際剣術大会が終わった後もこうして僕のところまで来てくれていて、僕への労いという点においても強い思いを感じる。
そして、考えた末に────
「ひ、人前でそういったことをするのは恥ずかしくて、あと……どっちを先に、なんて僕には選べないので、もし僕のことを労いたいと仰ってくださるなら、何か別の方法で労っていただくわけにはいきませんか?」
表面的なものとは言っても、やはり人前であ〜んをするということに存在する純粋な恥ずかしさと、加えて代替案を答えとして出すと、少しだけ沈黙してからエリナさんがフォークを下ろして言った。
「うん!それで良いよ!それなら、私たちは楽しく感想話し合いながらこの目の前にある美味しそうな料理食べよっか!」
エリナさんがそう言うと、シアナもそういうことで納得してくれたのか、フォークを下ろすと目の前の料理と向き合った。
「はい!でも、二人の気持ちは本当に嬉しかったので、ありがとうございます!」
僕は、二人が思ったよりも素直に引いてくれて良かったと思いながらも、しっかりと二人の僕に対する優しい気持ちに対して感謝を伝える。
そして、僕たちは一緒に目の前にある料理を食べながらその味や美味しさについての感想を伝え合った。
シアナとエリナさんは、味の好みが似ていて、ご飯を食べている時は似たような感想をとても楽しく言い合っていた。
……全然性格が違って初対面のはずの二人が、なんだかとても仲が良い……とは違うかもしれないけど、距離感が近いように見えて、僕はそのことがとても嬉しかった。
────その数十分後。
「ルクス……ほら、これが私の体だよ?触ってみて?」
────こんなことになるとは、食事をしている時の僕は思っても見なかった。
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