第166話 遭遇

 ────闘技場から出ると、僕とフローレンスさんは互いに向かい合う。


「フローレンスさん、また学校で会いましょう!」

「はい、ルクス様……本日も本当にありがとうございました」


 微笑んでそう言ったフローレンスさんは、僕に背を向けると馬車のある方へ歩いて行った……いつもすごいけど、今日のフローレンスさんも本当にすごかったな。

 そう思いながらフローレンスさんの背中を見届けた僕は、次に辺りを見渡した────と同時に。


「ご主人様!」

「シアナ!」


 聞き覚えのある声が聞こえてきたためその声の方を向くと、そこには僕の方に向かっているシアナの姿があって、僕の目の前までやって来るとシアナが笑顔で言った。


「ご主人様!剣術大会準優勝、おめでとうございます!!」

「ありがとう、シアナ」


 本当ならかっこよく優勝したかった気持ちはあるけど、決勝戦に残れなかった人たちのためにも僕はこの結果をしっかりと自分で誇りにして、今後より成長していくためのものにしよう。

 その後、ロッドエル伯爵家の屋敷へと向かう馬車に、僕とシアナの二人で乗ってその馬車が進み始めると────その直後にシアナが僕のことを抱きしめてきた。


「シアナ……?」

「申し訳ございません、ご主人様の従者である私が人目のある場でご主人様のことを抱きしめてはいけぬと思い自重していましたが、努力なされた結果準優勝までなされたご主人様と二人きりになると、つい抱きしめたくなってしまいました」

「謝らなくていいよ、本当にありがとう、シアナ」


 ここまで僕のことを思って、温かい気持ちで抱きしめてくれるシアナが近くに居てくれることに、僕は感謝を抱きながらそのままロッドエル伯爵家の屋敷まで帰った────そして、屋敷のドアの前に立つとシアナが大きな声で言う。


「ご主人様!本日は剣術大会が終了したということで、使用人一同ご主人様のことを労うため、そして準優勝を祝させていただくためにも夜は普段以上に豪華な食べ物がいっぱいご用意されますので、楽しみにしていてください!」

「本当!?楽しみだよ、ありがとう」


 貴族学校や豪華客船なんかではパーティーを楽しむことはあったけど、ロッドエル伯爵家の中でそういった催しをすることは滅多に無いから、僕が剣術大会に出たこと、加えて準優勝できたことによって明るい話題で楽しい時間を過ごすことができるなら、本当にこの剣術大会を本気で頑張って良かった。

 この剣術大会の期間を振り返って深々とそう思っていると、僕はあることを思い出したため、それをシアナに伝えるべく口を開いて言う。


「今日決まったことだから事前に伝えることはできなかったんだけど、剣術大会が終わった後で僕と一緒に居たいって言ってくれた人が居て、今日はその人もこのロッドエル伯爵家に来てくれることになってるんだ」

「ご主人様と一緒に居たいと仰った方……ですか?一体、どなたが────」


 シアナがそう言いかけた時、このロッドエル伯爵家の屋敷の前に一台の馬車が止まった……僕は、ちょうど今話題にしていた人物────エリナさんが到着したのだと確信する。


「ちょうど到着したみたいだから、あの馬車の前まで行こうか、シアナは初対面だと思うからその時にちゃんと紹介するよ」

「かしこまりました!」


 ということで、僕とシアナがその馬車の方へ行くと────赤のフードを被ったエリナさんが馬車から降りて来て、相変わらず明るい声で言った。


「あれ、ルクス?わざわざ出迎えてくれたの!?」

「僕たちも、ちょうど今帰ったところだったので」

「そっかそっか〜」


 そんな僕とその人物のやり取りを聞いたシアナは、何か思うところがあったような様子だったけど、エリナさんがフードを外してその綺麗で明るい表情を見せてくれると同時に、僕はシアナに言う。


「この人が、今日ロッドエル伯爵家に来てくれるエリナさん……明るくて優しい人で、話していてとても楽しい人だから、きっとシアナも仲良くなれると思うよ」

「え?何々?私のこと紹介してくれてる感じなの?だったら私からも改めて自己紹────介……え?」


 エリナさんは、シアナの方を見ると驚いたような表情で目を見開くと、表情や体の動きを固めた。

 そして、少し間を空けてから大きな声で言う。


「……は、はぁ!?フェ、フェリシア────」


 エリナさんが何かを大きな声で言おうとした時────突如、シアナがエリナさんの口元を塞いだ。


「シ、シアナ!?何してるの!?」

「申し訳ございませんご主人様、エリナ様の口元に何か付いていましたので……少々あちらの方で拭き取らせていただこうと思います」


 そう言うと、シアナはエリナさんのことを庭の端の方へ連れて行った……その間も、エリナさんは口籠もりながら大きな声を出し続けていた。

 ……よくわからないけど、もしかしたら僕にはわからない何かがあるのかもしれないから、もう少しここでシアナたちのことを待っていることにしよう。



◇シアナside◇

 エリナもとい、エリザリーナのことをルクスからは見えない庭の端まで連れてきたシアナは────先ほどまでルクスと話していた時からは想像もできないほどに鋭い目つきをして言った。


「エリザリーナ姉様、今すぐに王城へ帰ってもらえるかしら」

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