第164話 永遠
◇フローレンスside◇
ルクスと剣を交えているフローレンスは、その剣筋を見て思う。
────凄まじい成長速度ですね……ルクス様の素直な性格が、人一倍の吸収力を発揮させているのだと思われますが、最後に私と剣の練習をした時よりもここまで成長していらっしゃるとは……誰か腕の立つ方に直接教えていただいたのでしょうか。
「っ!」
フローレンスがその剣を受け流すと、ルクスはバランスを崩した。
今までの相手であればそれだけで十分────だったが、ルクスはそれを読んでいたのか、バランスが崩された瞬間に受け身を取るとすぐに剣を構え直した。
「やっぱり、フローレンスさんはとても強いですね……木刀で戦っていた時よりも何倍も強く感じます」
「ありがとうございます……ですが、私も今ルクス様のお力をとても感じています」
二人が改めて向き合ってそう言い合うと、観客席は歓声で埋まった。
「なんだ今の剣戟!」
「俺見えなかったぞ!」
「バランス崩されたのにすぐに立て直しやがった!」
歓声で闘技場中が埋まるが、フローレンスの目にはルクスしか映っておらず、ルクスもフローレンスだけを見ている。
────ルクス様のその真剣な眼差し……思えば、私はルクス様のことを初めてお見かけした、あの時から……
そんなことを考えていると、ルクスがフローレンスに剣を振り、フローレンスはそれを受け止める。
────ルクス様の剣と私の剣が触れ合うたび、ルクス様のことを強く感じるようです……今まで男性といった存在に興味など無かった私がここまであなたという男性のことを求め、恋焦がれてしまうことになるとは……
思わずそんなことを考えてしまっていたフローレンスだったが、それ以上剣から意識を逸らして勝てるほどルクスは弱くないため、すぐに剣に意識を戻す。
「少し受け身が過ぎましたね……ここからは、私も攻めに転じさせていただこうと思います」
「っ……!」
そう言ったフローレンスは、細剣の構え方を変えると突きの攻撃に転じ、高速でルクスのことを細剣で突く動きをする。
「細剣というものは扱いに習得がかかり、扱うことによってメリットを得られる人も限られる武器です……ですので、いくらルクス様と言えど、細剣による突きの攻撃は慣れていないのではありませんか?」
そのフローレンスの言葉通り、ルクスはその攻撃に対処するのが精一杯で全く攻撃に転じることができない。
「そうですね……こんなに速く突いているのに、僕の致命傷となる部分だけは的確に外せる技量があるぐらい細剣の扱い方を熟知しているフローレンスさんの細剣に対処できる技量は今の僕にはありません────ですけど」
ルクスは一度大きく後ろに下がってフローレンスの細剣の届く距離から下がると、再度フローレンスに向けて剣を振った……それにより、フローレンスはルクスの剣を受ける。
「こうして剣を交えていれば、剣を突くことはできません!」
「なるほど……ルクス様らしい、実に真っ直ぐな対策ですね────本当であれば、こうして共に高め合った剣をルクス様と交え、互いだけを見ていられるこの時間を永遠に過ごしていたいものですが……仕方ありません」
そう言ったフローレンスは、先ほどのルクス同様にルクスの剣が届かない距離まで下がると、再度ルクスに突きの攻撃を行った。
ルクスはまたも受けに転じ、タイミングを見計らって先ほどと同じように後ろへ下がろうとしている。
「────そこです」
そう言い放ったフローレンスが、ルクス────ではなくルクスの受けに回っている剣に向けて力強く細剣を突くと、ルクスの剣はその手から離れ飛んで行った。
そんなことが起きるのは、突きによる攻撃を受けている時は、普段剣を交えている時とは手の力の入り方が違うからだ。
「っ……!」
ルクスが咄嗟に剣を拾いに行こうとした時、フローレンスがルクスの首元に細剣を突きつけて言う。
「とても楽しい時間でした、ルクス様……ルクス様の成長や努力は、他の誰よりもこの私が保証致します」
「────そこまで!勝者、フローリア・フローレンス!そして同時に、この剣術大会の優勝者もフローリア・フローレンスで決定した!そして、これより十分後に、優勝者であるフローリア・フローレンスと私、第一王女レザミリアーナのエキシビションマッチを行う!」
レザミリアーナがそう言うと、観客席から今日一番の歓声が聞こえてきた……その瞬間、フローレンスはルクスの首元に突きつけた細剣を下ろすとそれを鞘に納める。
すると、ルクスが明るい表情で言った。
「フローレンスさん、ありがとうございました!試合には負けてしまって、悔しくないかと聞かれたら悔しいですけど……それ以上に、とっても楽しかったです!!」
フローレンスは、そんなルクスの明るい表情を見て、明るく微笑んでルクスに手を差し出して言った。
「私もあれほどまでに楽しい時間を過ごさせていただき、ありがとうございました……よろしければ、握手を交わしませんか?」
「っ!はい!」
ルクスは嬉しそうにそう言うと、フローレンスに差し出された手を握り二人は握手をした。
それにより、観客席からは盛大な拍手が聞こえてくる。
そして、少ししてから二人は握手していた手を離すと、ルクスは席へ戻り、フローレンスは剣を取り替えに観客席下にある廊下を歩く。
「……次の相手は第一王女様、ですか」
どれほどの剣の腕を持っているかはわからないが、この剣術大会の主催を行なっていることやその噂からもその技量は間違いなく世界最高峰。
先ほど剣を交えたルクスも間違いなく強敵だったが、レザミリアーナはそれ以上の強さであることが予想される。
「バイオレット様との取引の件もありますし……次のエキシビジョンマッチでは、より気を引き締めなくてはなりませんね」
◇レザミリアーナside◇
「────そこまで!勝者、フローリア・フローレンス!そして同時に、この剣術大会の優勝者もフローリア・フローレンスで決定した!そして、これより十分後に、優勝者であるフローリア・フローレンスと私、第一王女レザミリアーナのエキシビションマッチを行う!」
王族席のある場所で立ち、大きな声でそう言い放つと、レザミリアーナは一歩下がった。
すると、左隣の席に座っているエリザリーナが言う。
「あ〜あ、ルクス負けちゃったぁ……でもでも!剣のレベルが高いこの国の剣術大会で二位ってすごいよね!?」
それに対しレザミリアーナは頷いて言う。
「あぁ、自国を贔屓するつもりは無いが、それでも本国の剣術大会で二位という結果を収めることができるロッドエルは、間違いなく世界で見ても屈指の実力者だと言えるだろう」
「だよねだよね!あぁ、今日のためにいっぱい頑張ってきて、その努力が実ってよかったね〜、頑張ったね〜、偉いよルクス〜!」
「……」
そんな言葉を発しているエリザリーナを横目に、レザミリアーナは右隣の席に座っているフェリシアーナに向けて言う。
「フェリシアーナ、エキシビションマッチの合図と試合終了の宣言はお前に任せる」
「わかりました、お姉様」
フェリシアーナが静かに頷くと、そんなフェリシアーナとは反対にエリザリーナが大きな声で言った。
「え!?それって、始め!とか、そこまで!とか言うやつでしょ?私もしたい!!」
「フェリシアーナはその職務上王族として表舞台に出ることはあまり無いが、お前はそうではないだろう……フェリシアーナが王族としての立場を持って表舞台に出る機会を作る意味でも、今回はフェリシアーナに任せる」
「え〜!……まぁいいや、この後で楽しみもあるしね」
エリザリーナは意外にもすんなりと受け入れ、そのことに少し疑問を抱いたレザミリアーナだったが、今は目の前のフローレンスとのエキシビションマッチに集中することに決めて王族席から出ると、闘技場の中央に向けて歩を進め始める。
そして、剣の柄を握るとここには居ないルクスのことを脳裏に過らせながら心の中で言った。
────ロッドエルはフローレンスに敗れてしまったが……安心してくれ、ロッドエル……運命の相手である君の代わりに、この私がフローレンスに勝利しよう……どうか、私の剣を見ていてくれ。
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