第163話 ご主人様
◇シアナside◇
「ご、ご主人様!?」
突然強く抱きしめられたシアナは、そんな声を上げる。
────ル、ルクスくんから突然抱きしめられることになるなんて聞いていないわ!もちろんとても嬉しいことなのだけれど、心の準備がまだできていないわ……!
シアナが予想外のことに驚きながらも頬を赤く染めて嬉しく思っていると、ルクスがシアナのことを抱きしめたまま顔を向かい合わせて言った。
「シアナ、僕の試合、見ててくれたの?」
「も、もちろんです!最初から今の試合まで含めて、ご主人様のとてもかっこいいお姿を拝見しておりました!」
当然ここでルクスに伝えはしないが、実際は見ていただけではなく、心の中では普段見ることのできない、ルクスが剣を交えて誰かと戦っている姿に叫んで応援しているほどだった。
「か……かっこよかった、かな?」
どこか照れた様子でそう言うルクスのことを可愛いと思いながらも、シアナは口を開いて言う。
「はい!ご主人様は、本当にかっこよかったです!!」
「っ……!良かった……これで少しは、シアナの主人としてたくさんの人に、そして何よりシアナに良いところを見せられたね」
そう笑顔で言うルクスにシアナは胸を打たれる。
────か、か、可愛いわ!というか、私のためにここまで頑張ってくれていたというだけで今すぐにでも叫び出したいほど嬉しいわ!あぁ、ルクスくん、いけないわよ、そんな顔を見せられたら……
ルクスの顔に惚れ惚れしながらも、その感情をどうにか堪え────ルクスのことを抱きしめ返して言った。
「ご主人様は、どのような方よりも素敵でかっこいい、私の尊敬しお支えしたいと願うご主人様です!」
「シアナ……ありがとう」
その後、しばらく抱きしめ合っていると、ルクスが言った。
「そ、そろそろ次の決勝戦が始まるから、僕行かないと」
「そうですね」
ルクスのその言葉によって、二人は抱きしめ合う腕を下ろす。
すると、ルクスが言った。
「次の相手はあのフローレンスさんだから、今まで通りに……とは行かないと思うけど、それでも、全力で戦うよ!」
「はい!私も全力で応援させていただきます!」
「ありがとう!」
そう言うと、ルクスはその場から去って歩いて行った。
────私の理想としては、このままルクスくんがフローレンスに勝利して、ルクスくんの笑顔とフローレンスの敗北した姿を見れることだけれど……そう簡単にはいかないわよね。
「けれど……応援しているわよ、ルクスくん」
◇ルクスside◇
準決勝から決勝戦の間の今までより少し長い休憩時間が終わると、いよいよレザミリアーナ様が言った。
「これより、この剣術大会の本大会最終戦となる決勝戦を行う!公爵家からフローリア・フローレンス、伯爵家からルクス・ロッドエル、二名は速やかに闘技場の中央へ移動するように」
そう言われると、僕とフローレンスさんは同時に立ち上がると、互いの顔を見合って口を開く。
「それでは行きましょうか、ルクス様」
「は、はい!」
この決勝戦ですら相変わらず緊張を全く見せないフローレンスさんとは反対に、僕は少し緊張した声色でそう返事をする。
そして、二人で闘技場の中央へ移動すると向かい合う。
「……」
こうして改めて向かい合うと、フローレンスさんの放っている雰囲気は本当に今までの人たちとは全く違う……とても強い人の雰囲気だ。
だけど……シアナが応援してくれているのに、簡単に負けるわけにはいかない!
僕が緊張を振り解くようにそう心の中で強く言うと、フローレンスさんが小さく笑った。
「フローレンスさん……?」
「申し訳ありません、この剣術大会という大舞台の決勝戦で、ルクス様と剣を交えることができると思うとそのことがとても嬉しくつい声に出してしまいました」
「っ……!僕も、決勝戦でフローレンスさんと戦えることが本当に嬉しいです!」
互いに、この決勝戦についての思いを伝え合うと、レザミリアーナ様が僕たちに剣を構えるよう言ったため、僕とフローレンスさんは同時に剣を構える。
「ルクス様……今一度ハッキリお伝えしておきますが────私は、ルクス様のことを愛しております」
「え、えっ!?」
突然の言葉に僕がかなり驚愕を抱いていると、フローレンスさんが言った。
「婚約の申し出をしているのですから、私がルクス様のことを愛しているのは当然です……私がお伝えしたいのは、ルクス様のことを愛しているからこそ、この戦いでも手加減は致しませんということです」
「っ……!」
突然愛していると言われて動揺してしまったけど……そういうことなら。
「はい!本気で戦いましょう、フローレンスさん!」
「その勇ましい表情もお素敵です、ルクス様────そのような素敵な表情をなされるルクス様の将来の妻として、この場でルクス様に勝利させていただきます」
フローレンスさんがそう言った直後────
「始め!」
というレザミリアーナ様の声が闘技場中に響くと、僕とフローレンスさんは互いに地を蹴って剣を交え始めた。
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