第160話 恋愛感情
◇ルクスside◇
────第四試合目。
いよいよフローレンスさんの番になって、その相手はフローレンスさんと同じ公爵家のグレイソンさん。
公爵家の人で、剣術大会に出るということはそれなりに剣を学んで来ているだろうから、一体どんな剣を振るうのかとても楽しみにしていた────けど。
フローレンスさんは、一歩も動くことなく近づいてきたグレイソンさんの隙を素早い細剣の動きで突くと、その細剣をグレイソンさんの首元寸前で止めた……本当に速い。
「そこまで!勝者、フローリア・フローレンス!」
ということで、グレイソンさんの剣を見るまでもなくフローレンスさんが一瞬で勝利した。
それによって、観客席の方から歓声が上がったけど、僕やフローレンスさんと同じ剣術大会に参加している剣士の人たちからも声が聞こえてきた。
「おいお前、さっきの動き見えたか?」
「見えた!って言いたいところだが、見えなかったぜ……」
「だよな……細剣の良さをフルに活用した上で本人の能力も高いと見た」
「あれがあのフローレンス家の令嬢か……」
剣士の人ですら、今のフローレンスさんの動きは感嘆以上のものらしい。
僕はフローレンスさんとずっと練習をしていたからか、動きを追うことぐらいはできた。
そして────今までずっとフローレンスさんと剣の練習をしてきた僕だからわかる……通常の剣の形をした木刀で戦っていた時と比べて、フローレンスさんが格段に強くなっていることを。
細剣を使ったフローレンスさんがどれぐらい強いのか、僕がそんなことを考えていると、フローレンスさんはその細剣を新しいものに替え終えようで、僕の隣の席まで戻ってきた。
「お疲れ様です、フローレンスさん!細剣を扱ってるところは初めて見ましたけど、とても速い動きで驚きました!」
「ふふ、ありがとうございます……ですが、細剣が通常の剣より優れている点として素早さがありますので、速いのは当然ですよ、今回はたまたますぐに勝利することができ幸運でした」
微笑みながらいつも通りの口調でそう言うフローレンスさんだけど、それが謙遜を超えた謙遜であることは言うまでもない。
────それから試合が続き、いよいよ僕の二回目の試合となったため、僕は闘技場の中央へ移動する。
すると、その対戦相手の大きな剣を持った男性が僕と向かい合って言った。
「坊主、俺と当たったが運の尽きだな……まぁ、ルールを破ったら失格になっちまうから致命傷は負わせねえが、ここで負けてもらうぜ」
「申し訳ないですけど……僕は、ここで負けるわけにはいきません!」
「度胸だけは認めてやるが、後悔することになるぜ?」
その後、僕は大剣を振ってくるこの人の攻撃を何度か避けると、その大きな振りの隙を突いてこの人に剣を突きつけた。
「そこまで!勝者、ルクス・ロッドエル!」
レザミリアーナ様のそんな声が響くと、僕たちは互いに剣を下ろす。
「なかなかやるじゃねえか……次に大会で会うときゃ、俺が勝たせてもらうぜ」
そう言うと、その人は僕に背を向けて闘技場を去って行った。
……あの人はあの人で独特な人だったけど、ひとまず勝利を収めることができて良かった、かな。
そう思いながら、僕も歓声に包まれた闘技場を歩き、剣を替えに観客席下にある廊下に入った────すると。
「見事な剣でした、ロッドエル様」
そこには、全身を黒で覆い尽くしている黒のフード付きの黒のコートを着た長身の人物の姿があった……この声は────
「もしかして、バイオレットさんですか!?」
僕がそう聞くと、その人物は僕にだけ見えるようにフードの中を覗かせてくれて────そこにあったのは案の定、バイオレットさんの顔だった。
その顔を見た僕は、とても気持ちが高まってバイオレットさんに近づくと、そのバイオレットさんの左手を僕の両手で握って言った。
「バイオレットさん!最初の試合見ててくれましたか!?」
「っ、は……はい、見ておりました、が、その前に手────」
「あの試合、バイオレットさんに教わったことができたおかげで勝てました!」
「い、いえ、ロッドエル様の努力があってこそ────」
「他にも基礎的なところとかをバイオレットさんが教えてくれて居なかったら、ここまでスムーズに二試合とも勝つことなんてできなかったと思います!」
「そのようなことは────」
「バイオレットさんが居てくださって本当に良かったです!ありがとうございます!!」
僕がそう伝えると、バイオレットさんは右手で自らのフードを深く被り直して小さな声で「はい……」と言った……どうしたんだろう?
◇バイオレットside◇
バイオレットは、深く被ったフードの中で頬を赤くしながら、そのルクスの言動にとても心拍数を高めていた。
────ロッドエル様……このようなところで私のことを恋愛感情で埋めつくされては、ロッドエル様のことを抱きしめたく……いえ、それではお嬢様と同じではありませんか……!
その後、バイオレットは自らの恋愛感情により取りたいと思う行動を必死に押さえながらも、ルクスの剣を褒めたりして二人で話した。
そして、ルクスと別れたところで────バイオレットは、ルクスと話している途中からずっと感じていた視線に向けて声を掛けた。
「ここでは周りに人も居ません……私に用事があるのでしたら、どうぞ姿をお見せください」
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