第159話 恋敵

「ど、どうしてここに────」


 突然姿を現したエリナさん、それも剣術大会の廊下で姿を現したエリナさんに驚いて僕がそう言いかけた時、エリナさんは僕のことを抱きしめてきて言った。


「久しぶり〜!元気にしてた?私はお仕事大変だったけど、ルクスのためって思ったら頑張れたよ〜!」

「あ、あの!い、いきなり抱きしめられると、その……」

「ルクスが恥ずかしがっちゃうのは分かってるけど、私はずっと我慢してたんだからルクスもちょっとぐらい我慢して!」

「え、えぇ!?」


 僕はそんなエリナさんに困惑しながらも、エリナさんはとても嬉しそうに僕のことを抱きしめてきていた。

 ……とてもじゃないけど、そんなエリナさんのことを無理やり引き離すなんてことはできない。


「ルクスの体、制服越しでもちゃんと男の子の体って感じで鍛えられてるのが感じられて本当に好きなんだよね」

「そ……そう、ですか?僕よりも体も大きくて鍛えられてる人は他にもたくさん────」

「もう〜!他の男なんて知らないよ〜!ルクスだから良いの!」


 そう言うと、エリナさんは僕のことを抱きしめたまま僕にだけフードの中の綺麗な顔を見せてくると、首を傾げて言った。


「ねぇ、ルクスは?ルクスは私に会えて嬉しくない?」

「え、えっと……嬉しい、ですけど、いきなり抱────」


 続きを言いかけた時、エリナさんはさらに強く僕のことを抱きしめてきて言った。


「ありがと〜!私も嬉しいよ、ルクス!」


 それから僕のことを抱きしめてくるエリナさんのことをどうすれば良いのかわからず、少しの間そのままエリナさんに抱きしめられ続けていると、エリナさんが僕のことを抱きしめるのをやめて言った。


「本当はもっと抱きしめてたいけど、ルクスはこの後また試合があるし、今はこのぐらいで満足しておかないとね……そうだ!ルクス!一つお願いがあるんだけど良い?」

「お願い……?なんですか?」


 もしエリナさんの願いに僕が答えられるなら、もちろん僕はそれに応えたいと思うためそう聞き返すと、エリナさんが言った。


「今日剣術大会が終わったら、ルクスの屋敷にお邪魔しても良い?」

「え……!?エ、エリナさんが僕の家に来る、っていうことですか!?」

「うん!ほら、前豪華客船パーティーの終わりに『またこういうの誘ってもいい?今度は本当に、二人になれる場所とかで!』って言ったでしょ?だから、剣術大会終わりで疲れてる時だと思うけど、そんな時こそ一緒に居たいっていうか……そうじゃなくても、ルクスと一緒に居たいの」


 最後の部分だけどこか落ち着いた口調でそう言ったエリナさんのことを見れば、エリナさんが僕と一緒に居たいと思ってくれていることが本当なのだということがわかる……僕も、突然抱きしめられたりしたのは驚いたけど、前の豪華客船パーティーではエリナさんと少ししか過ごせなかったし、何より僕もエリナさんとたくさんお話ししたい。


「わかりました、エリナさん……ただ、屋敷内だと完全に二人きりじゃなくて、僕の従者とかも僕たちのところに来るかもしれないんですけど大丈夫ですか?」

「うん、もちろんだよ!ルクスみたいな優しいご主人様が剣術大会を頑張ったなら、その従者の人もルクスのことたくさん労いたいと思うし!」

「ありがとうございます、エリナさん!そういうことなら、僕もエリナさんのことを歓迎します!」

「やった〜!じゃあ、これ以上抱きしめるのはその時に取っておこっかな〜」

「え……!?こ、これ以上って、もしかして夜も────」


 僕が動揺してそう言いかけると、エリナさんは僕から距離を取って、僕に手を振ると大きな声で言った。


「じゃあまた夜に会おうね〜!ちゃんとこの後の試合も応援してるから、頑張ってね!!」

「っ……はい!頑張ります!応援してくれてありがとうございます!」


 そうお礼を言うと、エリナさんはこの場を去って行った……今日のエリナさんはいつも以上に気分が高まっていたみたいで、少し困惑してしまったけど────


「エリナさんが応援してくれた分も含めて、この先も頑張ろう」


 僕はまた一つ頑張る理由を得ると同時に、応援してくれたエリナさんに心の中でとても感謝した。



◇エリザリーナside◇

 ルクスと会った後、エリザリーナは王族席に戻ってその後も試合を観戦していたが、もはやルクスの出ていない試合など眼中に無く、脳内はルクスのことでいっぱいだった。

 ────ルクス、かっこいい、可愛い、優しい、強い……好き〜!あ〜!好き〜!今日は夜もルクスに会えるんだ〜!早くルクスの試合にならないかな〜!

 そんなことを考え続けていたエリザリーナ────だったが。


「第四試合、公爵家からフローリア・フローレンス、同じく公爵家からアルバート・グレイソンの二名は、速やかに闘技場の中央に移動するように」


 フローリア・フローレンス、その名前が聞こえ、一度脳内でルクスのことを考えるのをやめると闘技場の方に意識を戻した。

 ────フローレンス……ルクスに婚約を申し出た女。

 ルクスから直接聞いたわけではないが、エリザリーナが罪悪感を覚えながらも、ルクスの純粋さを利用して婚約を申し込んできた相手が学力試験で一位だという情報を漏らさせて分かったこと。

 名前を呼ばれた二名が闘技場の中央へ出てくると、エリザリーナはそのうちの男性の方ではなく、青髪の女性の方に目を移す。

 ────あれが、フローリア・フローレンス……フローレンス家なんて、王族を除けば家柄だけでもトップクラスに秀でてるのに、あのフローリア・フローレンスは歴代のフローレンス家でも才覚が突出してるって話だし、剣もレザミリアーナお姉様が認めるほど……はぁ、ルクスが女を惹きつけちゃうのは仕方ないけど、今後厄介になりそうな相手。

 エリザリーナは、今のうちに恋敵の力を把握しておくために、この試合にはしっかりと注目することにした。

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