第144話 負けず嫌い
「あなたが私と話をしたいということはわかりました……ですが、あなたは初めて会う私と一体どのようなお話をしたいのですか?」
会話する姿勢を見せながらもそう聞くと、黒のフードを被った人物は淡々とした口調で言う。
「……僭越ながらお聞きさせていただきますが、フローレンス様は一体どうしてそちらに居る第三王女フェリシアーナ様に対して敵対の意を示されるのですか?」
口調で言えばフェリシアーナよりもフローレンスに似ているが、その人物の声音は淡々としており、フローレンスとは似てすらいない完全に非なるものだった。
────この状況からも予想はできていましたが、この方はシアナさんのことを第三王女様だと知っているのですね……ですが。
「そのようなことは、先ほどの会話をお聞きだったのであればわかることなのではないですか?それでもあえて答えさせていただくのであれば、私は手を血で染めている第三王女様が、綺麗なお心を持つルクス様に偽りの姿を持ってして近付いていることに対して酷く嫌悪感を抱いています」
「嫌悪感、ですか……フローレンス様の心情は理解できますが、時にはそういったこことも必要であることは、フローレンス様であればわかっておられるはずです」
「確かに、私はルクス様ほど清らかな心を持ち合わせているわけでは無いので、あなたの言っている言葉も国や政治に関してであれば理解することはできます、だからこそ私は以前第三王女様に第三王女様には王族として突出した才能があるということを伝えさせていただきました────それでも、だからといってルクス様と生涯を添い遂げる相手として相応しいかと言われれば、私は間違いなく首を横に振らせていただきます」
王族としての才能があるからと言って、ルクスと生涯を添い遂げても良い存在であることの証明にはならない。
むしろ、王族としての才能があればあるほど暗いものに触れることができてしまうため、フローレンスからしてみればルクスと生涯を添い遂げても良い存在とは言い難い……そんな思いを抱きながらフローレンスが強く言い切ると、黒のフードを被った人物が言った。
「フローレンス様の仰る、生涯を添い遂げる相手というものにはどのような条件があるのですか?」
黒のフードを被った人物がフローレンスにそう聞いてきたところで、少しの間沈黙していたフェリシアーナが口を開いて言う。
「あなた、何を勝手に聞いているの?フローレンスの基準なんて私にとってはどうでも良いことよ」
「今後重要になってくることです……フローレンス様、お聞かせ願えますか?」
フローレンスにとっては答えても答えなくとも良かったが、自らの願望を伝える意味でもここは答えておくことにした。
「第三王女様になぞらえて答えさせていただくのであれば、自らの正体を明かし、今まで自らが行なってきた全てを告白し今後一切そのようなことをしないとルクス様に誓い、それでルクス様ご本人が第三王女様を受け入れてくださった場合、でしょうか……最も、そうなった場合、ルクス様は第三王女様のことをお見放されると思いますが」
「わかりました、お答えいただきありがとうございます……では、もしそうなった場合は遺恨を残されないようお願い致します」
「ルクス様がお認めになられたときは、そのことを約束致します……あなたが私とお話したかったことというのは、これだけですか?」
「はい」
一体この話し合いにどんな意味があったのか、深いところまではわからないが、フローレンスにはそれよりも気になることがあった。
「でしたら一つ、私の方からもお聞かせください────第三王女様と行動を共にしているあなたは、第三王女様の行いをどう思っているのですか?」
「気は進みませんがしなければいけないこと、と考えています」
「気は進まないという良識を持っていらっしゃるのであれば、別の方法をお考えになられた方が良いと思います……第三王女様がしていらっしゃるようなことは、しなくとも良いのです」
フローレンスがそう言うと、黒のフードを被った人物は頷いて言う。
「フローレンス様の仰っていることは正しいです、が────私は第三王女フェリシアーナ様の仰っていることも正しいと考えております……ですので、正直私にはお二人が争われている理由があまり理解できません」
「フローレンスの言ってることが正しいわけないじゃない!」
「第三王女様の仰っていることが正しいはずがありません」
フローレンスとフェリシアーナは同時に否定し、それを聞いた黒のフードを被った人物は少しだけ間を作ってから言った。
「これ以上この場でそのことに対する言及は避けておきましょう……ただ、フローレンス様、加えてあと一点……私は今後、フローレンス様と良き関係性になりたいと考えています、なのでもしフローレンス様がそれを前向きに考えてくださるつもりがあるのでしたら────まずは、ロッドエル様から私の名前をお聞きください」
「ルクス様から、あなたの名前を……ですか?」
「はい、こう聞けばわかると思われますよ────今までロッドエル様が紅茶を淹れた中で誰の紅茶が一番お口に合ったのか、と」
それを聞いた瞬間、フローレンスは目を見開いた。
この黒のフードを被った人物がフローレンスと良き関係性になりたいと考えていることや、突然ルクスの名前が出たこと、そしてこの黒のフードを被った人物がルクスと紅茶を淹れるような関係性であることなど多々驚いたことはあるが、それよりも────
「ルクス様が、私の淹れた紅茶よりも、あなたの紅茶の方を美味しいと思っているというのですか?」
「僭越ながら」
「っ……」
そう聞いた次の瞬間、フローレンスはシアナの部屋を後にした。
────ルクス様の妻として、他の女性よりも紅茶を淹れる力量で負けてしまうなど、フローレンス家末代までの恥となってしまいます……ですが、あの方の言っていたことが本当であるかどうかなど、まだわかりません。
そのことを確認する意味でも、フローレンスは急いでルクスの部屋へ向かった。
◇バイオレットside◇
フローレンスが去ったシアナの部屋の中で、シアナはバイオレットに向けて言う。
「あなた、本当に負けず嫌いね……わざわざ自分から正体が明かされるようなことをしてまで、そのことを周知しておきたかったの?」
「最初はそのようなつもりはありませんでしたが……私もロッドエル様に恋愛感情を抱いている身、やはり思いを同じくしている方と話をすると、どうしてもルクス様に関することで負けたくないと考えてしまうのです……それに、姿を現した以上、私の正体などいずれはバレてしまうことですから」
今まで自分の感じたことの無い感情を感じ、バイオレットは自分でもそのことに少し面白く感じてしまうが、そう感じてしまうのだから仕方がない。
「ふふ、そうね……でも、それなら今は私とルクスくんが婚約することに協力してくれているけれど、私がルクスくんと婚約した後で自我をたくさん出してくるようになるということなのかしら?」
「さぁ、それはいかがでしょうか」
「いいわ、ここではそのことを言及はしないでおいてあげる……他にも色々と気になることはあるけれど、ルクスくんとフローレンスのことを長い間二人にはしたくないから、そろそろ私は行くわね」
「はい」
その後、シアナはおそらくフローレンスが向かったであろうルクスの自室へと向かった────バイオレットの中には、まだ想像程度だが、それでも確かにこの時からシアナにも伝えていない、ルクスの性格を考慮した未来の構想があった。
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