第143話 初対面
「ルクスくんに代わってあなたが私のことを裁く……?どうして私があなたに裁かれないといけないのかしら?」
「それを問い質すためにここへ来たのです……ルクス様の様子は明らかに異常でした、あなたの話になった途端に顔を赤くしうつ伏せにするなど……そして、その昨日の夜にあなたと何かがあったであれば、あなたのことを疑うのは当然のことです」
フローレンスがそう言うと、フェリシアーナは嬉しそうな声音で言った。
「ルクスくん、昨日のことを気にしてそんな感じだったのね……ルクスくんが昨日の夜のことを気にしているのは明白だったけれど、学校に登校した後まで私との昨日の夜のことを考えていてくれたなんて嬉しいわ……ルクスくんの脳内に私が居るというだけで────」
「第三王女様、生憎私は第三王女様のルクス様に対する感情を聞くために今この場に居るのでは無いのです……大人しく、昨日の夜ルクス様に何をしたのか答えてください」
「何をしたのか、ね」
そう言うと、フェリシアーナはゆっくりとした動きでフローレンスから少し距離を取り、フローレンスと向き合った。
フローレンスにしてみれば、フェリシアーナの首元に剣を添えていたという絶対有利な状況では無くなってしまったが、自らが剣を抜いていてフェリシアーナが剣を抜いていないという状況であるため、それならば問題無いと判断し、大人しくフェリシアーナの次の言葉に意識を集中させる。
すると、フェリシアーナが言った。
「おそらく、ルクスくんはとても大きなことをしたと思えるような反応をしていたでしょうから、あなたはおそらく誤解しているんでしょうけれど、私はあなたが想像しているようなことをルクスくんとしたわけじゃないわ」
そう言ったフェリシアーナは一度シアナの自室にあるベッドに視線を移すと、再度フローレンスに視線を向ける。
その言葉に少しだけ安堵したフローレンスだったが、かと言ってルクスは間違いなく顔を赤らめて恥ずかしいという言葉を口にしていたため、フローレンスのその予想が間違っていたとしても別の形でフェリシアーナがルクスに何かをしたことは間違いない……元々フローレンスが予想していたことで無いとなると、もはや幅が広すぎてそれを予測することは容易では無いため、フローレンスは今抱いている疑問を改めてシアナにそのまま投げかけた。
「でしたら……昨日の夜、ルクス様と第三王女様の間には、何があったのですか?」
フローレンスがそう投げかけると、フェリシアーナはそれを受け取って言った。
「────昨日の夜、私とルクスくんは二人お風呂に入ったのよ」
「っ!?ルクス様と……お風呂……に、ですか?」
「えぇ、そうよ」
フローレンスが想定していた最悪の答えで無いことは確かだったが、だからと言って自らの想い人であるルクスが他の女性、それも自らを偽り手を血で染めている第三王女フェリシアーナがルクスとお風呂に入ることなど、到底許せることでは無かった……フローレンスは、動揺を怒りに変えて言う。
「あなたは、お風呂ですら拭うことのできない血で染められた手を、偽りの姿で覆いルクス様とお風呂に入ること、その行為に恥を覚えていないのですか?」
「恥なんて覚えていないわ、むしろルクスくんと初めてお風呂に入った女性という名誉を得られたのだから、これは素晴らしいことよ」
「そんなものは名誉でも何でもありません、ただの偽りです」
「あら、私に嫉妬しているのかしら?それはそうよね、自らの愛する人と服を纏わずそのままの姿で愛し、同時に愛されたいと願うのはどうしようも無いことだもの……けれど、あなたにはその資格が無いのだから諦めなさい」
そう言われたフローレンスは、細剣を抜いてシアナに向けて細剣を突いて言った。
「それは、あなたの方です、第三王────っ!?」
そう言いかけたフローレンスの剣を────つい先程まで目の前には居なかったはずの黒のフードを被った人物が、フェリシアーナの前に出て短刀で受け止めた。
すると、黒のフードを被った人物は言う。
「……峰打ちでしたか、これは大変失礼致しました」
そう言うと、フローレンスの細剣の力を受け流し、女性の声でそう言った。
フローレンスは、一度細剣を下ろすと、その黒のフードを被った人物の方を見て今抱いている率直な疑問を口にした。
「あなたは、一体……何者なのですか?」
そう聞くと────黒のフードを被った人物は短刀を懐に納めると、フローレンスに頭を下げてから再度フローレンスと顔を向かい合わせて言った。
「お初にお目にかかります、フローレンス様……私の正体を明かすことはできませんが、私は少しフローレンス様とお話をさせていただきたいと思っています」
「私とお話を……ですか?」
「はい」
「……」
黒のフードを被った人物の正体や目的はわからないが、フローレンスはそこも含めて探るべく細剣を鞘に納めると、黒のフードを被った人物の提案に答えて黒のフードを被った人物と話をすることにした。
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