第137話 異性
「ロッドエル様とお風呂に……ですか?」
シアナの突然の言葉に困惑した様子のバイオレットがシアナに対してそう聞くと、シアナは頷いて言った。
「えぇ、そうよ!ルクスくんは剣の練習で体が疲れているはずでしょう?だから、私がメイドとしてルクスくんと一緒にお風呂に入ってルクスくんの体を優しく解しながら体を洗ってあげるのよ!」
その言葉を聞いたバイオレットは、少し間を空けてから言う。
「それは……確かに少なくとも今のロッドエル様とフローレンス様の関係ではできないことだと思われますので良い案だと思いますが……」
シアナは、どこか言葉が辿々しいバイオレットの様子を見て、長年バイオレットと居た経験から今バイオレットが何を考えているのかを言葉にする。
「あなた、異性とお風呂、それもルクスくんとお風呂という言葉を聞いて照れているのね?」
「っ!?」
すると、バイオレットは珍しく少しだけ頬を紅潮させた。
そして、その様子を見てバイオレットの心情が今シアナの口にしたことで間違いないと確信することができたシアナはさらに言う。
「あなたは普段は落ち着いているけれど、本当にこういう話には弱いわね……私は、というか異性を好きになっているのだからいずれこういう時がやって来るということはわかっていたでしょう?」
「そう、ですが……お嬢様にも、今までそういったご経験は無いはずですよね……?それなのに、どうしてそこまで動じずに居られるのですか……?」
バイオレットはいつになく弱々しい声音でそう聞くと、シアナが答えた。
「別に、私だってルクスくんと一緒にお風呂に入るのが全く恥ずかしくないというわけではないわ……けれど、それ以上に愛しているルクスくんと、もっと身を寄せ合えるような関係性になりたいのよ」
「身を、寄せ合う……」
シアナは、いつになく弱々しい様子のバイオレットのことを少し面白く感じ、少しだけバイオレットのことをからかうように言った。
「あなたはどうなのかしら?」
「どう、というのは……?」
「あなたはルクスくんとお風呂に入りたいと思うのか、ということよ」
「っ……!」
シアナにそう聞かれたバイオレットは、黒のフードを被って自らの顔がシアナに見えなくすると言った。
「そのようなこと、答えられません……が、ロッドエル様が認めてくださるのであれば────いえ、なんでもありません……」
そう言うと、バイオレットはそのまま口を閉ざした。
バイオレットが少しずつ自らの幸せを見つけていっていることが嬉しいと思う反面、相変わらずその恋愛感情の相手がルクスなことだけがどうにも複雑なシアナだったが、それでもバイオレットが幸せに向けて歩み始めているということが嬉しいという感情の方が勝った。
そして、シアナは目の前のバイオレットの頭をフード越しに軽く撫でると、シアナの自室のドアに近づいて言う。
「それじゃあバイオレット、行って来るわね」
「はい……もしお二人でお風呂に入られることになった場合は、お風呂内ではなくお風呂近辺の警戒に当たらせていただきます」
「えぇ、お願いね」
言葉の節々に珍しく照れている様子のバイオレットが窺えてそのことが少し楽しかったシアナだったが、自室から出るとすぐに切り替えてルクスの部屋へと向かった。
◇ルクスside◇
「ご主人様、少々よろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ」
シアナが僕の部屋から出て行った後、勉強をしていると少し時間が経ってからまたも僕の部屋のドアの前からシアナの声が聞こえて来たため僕がそう返事をすると、シアナは僕の部屋の中に入って来た。
見たところ特に様子はおかしくないみたいだったため、僕がそのことに安心感を覚えていると、シアナが聞いてきた。
「ご主人様、本日はこれからどうなされますか?」
「今日は少し疲れてるから、勉強はもうそろそろ終わりにして、夜ご飯を食べてお風呂に入ってすぐに寝ると思うよ」
「そうでしたか……でしたらご主人様!よろしければ本日は私と一緒にお風呂に入りませんか?」
「────え?」
シアナと僕が、一緒にお風呂……!?
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