第132話 光景
◇ルクスside◇
「こ……婚約?ぼ、僕とフェリシアーナ様が、ですか!?」
「えぇ、その通りよ」
僕は、突然のフェリシアーナ様の言葉にとても驚愕……というか、なんて言えば良いのかわからない感情に陥った。
今、あの第三王女フェリシアーナ様が僕に婚約のお誘いをしてくださった……?
貴族と言っても伯爵家で、まだ十五歳で特に何かすごいことをしたことがあるわけでもない僕のことを、あのフェリシアーナ様が……?
全く頭と感情が追いつかないし、きっと色々と言わないといけないことはあるんだろうけど────一つだけ、言わないといけないことがあるため、僕はそのことおフェリシアーナ様に伝えることにした。
「えっと……フェリシアーナ様からそう仰っていただけるのは、すごく、ありがたいんですけど……フェリシアーナ様が僕────」
「もし自分が私に釣り合わない、という理由でこの誘いを断ろうとしているのなら、それはやめてもらえるかしら……前にも言ったことだけれど、ルクスくんは誰よりも頑張っていて、誰よりも努力していて、誰よりも他人のために悩める優しい男の子なのよ……そして、私はそんなルクスくんなら良き領主に────いいえ、私と婚約すれば、良き王ね……私は、ルクスくんが良き王になれると確信しているのよ」
「お……王様!?ぼ、僕は伯爵家の領主になることですら今から精一杯なのに、それが王様なんて────」
「ルクスくんならなれるわ」
僕の弱気な言葉に対して、フェリシアーナ様は全く曇りの無い澄んだ瞳で、強くそう言ってくれた。
フェリシアーナ様に婚約の話をいただいたことに加えて、もしそれを受ければ僕が王様になるかもしれないという話……もはや、僕の頭は目の前の現実を理解するだけでも処理が追いつきそうになかった────けど……少なくとも、こんなにも真っ直ぐな目で僕のことを信じてくれている人からの婚約の話を、僕の弱気な理由で断るなんて失礼なことはできないし、してはいけないことだけはわかった。
それに────前に僕が良き領主になるという話をフェリシアーナ様がしてくれた時にも思ったことだけど、フェリシアーナ様の言葉には、想像なんかじゃなく、まるで本当に誰よりも近くで僕のことを見てきたかのような言葉の重みがあって……益々、その思いを裏切るようなことはしたく無い。
「フェリシアーナ様から婚約の話を頂いたり、王様の話だったり、他にも色々なことがあると考えると、今ここで答えを出すことはできないです……だから、申し訳ないんですけど、少し考えさせてください……!」
そう言った後で、僕は万が一にも誤解させてしまうようなことがあってはいけないと思い、間を空けずに言う。
「も、もちろん!考えるというのはフェリシアーナ様が婚約相手として不満があるというわけではなく、むしろ過分だからこそというか……」
「そんなこと、わざわざルクスくんが説明しなくてもわかっているわよ……私を誰だと思っているのかしら」
「……すみません、フェリシアーナ様にはこのようなこと────」
そう言いかけた時、僕の中に何か違和感が生まれた。
僕自身、具体的にどんな違和感なのか、そしてどんな違和感なのかはわからない……だけど、確かに感じた。
「フェリシアーナ様、僕たちが最後に会ったのって,王城でダンスをした時が最後……ですよね?」
「えぇ、そうだけれど……どうしててそんなことが気になったのかしら?」
「な、なんでも無いです!忘れてください!」
僕は、よくわからないこの違和感をどうにか抑え込みながらそう言った。
すると、フェリシアーナ様は僕のことを少しの間静かに見つめてから言う。
「……それならルクスくん、返事は一度保留ということで良いのかしら?」
「は、はい……本当にごめんなさい!フェリシアーナ様からの婚約のお話を、保留にしてしまうなんて……」
「それだけ真剣に捉えてくれているということでしょう?だったら、私に言うことはないわ」
そう言って、フェリシアーナ様はとても優しい表情を見せてくれた。
……フェリシアーナ様の優しい表情は、フローレンスさんやエリザリーナ様とは少し違う。
もちろん、みんな雰囲気は違うんだけど、フェリシアーナ様はの優しい表情は、本当に僕のことをずっと横で見守ってくれているような優しい表情で……フェリシアーナ様に対してこんなことを思うのは失礼だから今まであえて意識して来なかったけど、フェリシアーナ様のこういう表情を見ると、なんだか嬉しくなってしまう自分が居る。
本当に、時々フェリシアーナ様と過ごしている自分のことがよくわからなくなる……フェリシアーナ様と過ごしていると感じる、この心地良さは一体────
「あ〜!居た〜!ルクス〜!久しぶり〜!」
「……え?」
突然僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきたかと思えば、そこには────エリザリーナ様とバイオレットさんの姿があった。
「エリザリーナ様!バイオレットさん!」
二人が僕とフェリシアーナ様の目の前までやって来てくれると、僕たちは少しの間楽しく話して過ごした。
────この場にシアナも居たら、もっと……なんて考えてしまうのは僕の悪い癖だけど、それでも考えてしまう。
いつか────ここに居る人たちにシアナ、フローレンスさん、エリナさんやレミナさんも加えて、みんなで楽しく過ごしたいな。
月に照らされた綺麗な海の上を歩く豪華客船の上で、僕はそんな光景を夢に見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます